さよならソングは涙色 11
今もまだ好きだよ 好きなんだ 君が、好き
君が隣にいない事が こんなにも切ないなら
二人出逢わなければ 何度も思っては俯いて
いつだって目を閉じ浮かぶのは 君の笑顔と優しい手のひら
“前を向かなきゃ” わかっているけど
やっぱり君といたあの日々は消したくない 忘れられなくて
矛盾した想いに足をとられ 今もまだコノ場所から動けない
誰も居ない隣 今ではもう当たり前の毎日で
君の面影を思い出すたび 高鳴る鼓動
優しい口付け 初めて重なったあの日
目が合った瞬間 照れたようにお互い笑ったね
そんな儚い想い出 背負っているのは僕だけなのかな
君はもう新しい道を歩んで 僕じゃない誰かの隣で笑っているの?
嫌だよ いやだ
君のために流す涙 枯れ果てその意味も忘れた
名前も何も知らなかったあの頃
何も知らずに笑えたあの頃
戻れたのなら どれほど幸せなんだろう
叶わない願い 何度願ったって君はもうここに居ない
たとえ君が僕のモノでなくったって 僕はまだ…
「君が好き、なの。」
今はまだ、君を忘れたくない。
だから当分は歌う事、止められそうにないや。
「お、丸井君。」
教室を出ると、彼はちょうど隣の教室に入ろうとしているところだった。
私の声に気付いて一度教室に入ろうとした身体を止めて振り返る。
彼の後ろに続いていた友達も足を止めてこっちを向いた。 わっ男前。
「おーじゃん。 今から何の授業?」
「次授業ないから図書館へ昼寝しに。」
「学生証忘れんなよ。」
「…そういえばそんな事あったね。」
へへっと笑えば、丸井ブン太フレンズの男の子がじっとこっちを見ていることに気が付いて視線をそちらへ向けた。
当たり前だけどばっちり目が合った。
「丸井君のお友達?」
「おう、コイツ仁王。」
「どーも。」
「あ、どうも。」
挨拶されたので仁王君にぺこっと軽く頭を下げた。
だけど仁王君はじっとこっちを見たままで、ちょっとっていうかかなり居心地が悪かった。
何だ、この友達は。 丸井君どうにかしてよ。
「ブン太がいつも言う、ってアンタの事じゃったんか。」
「ん?」
「俺アンタ知ってるぜよ。」
「…え、知ってる?」
何か変な喋り方の仁王君が漸くニッコリ笑ってそう言った。
知ってるって…何で? 私は首を傾げて少し背の高い仁王君を見上げた。
「アンタのこと好みって言ってる奴が多くての、社会学部の男子の中じゃ有名なんよ。」
「そうなの? 私が?」
「服の趣味とか…結構ポイント高いぜよ。」
「え、マジで?」
「マジマジ。 のう、ブン太?」
私がリアクションに困っていると、仁王君が丸井ブン太に同意を求めた。
丸井ブン太に視線を向けると、彼はちょっとだけ視線を逸らして「んー」と曖昧な返事をした。
んーって何だ。 んーって…同意したの? それともそんなことないって意味? どっちだ?
「あ、授業始まっちゃうね。 私も早く図書館行かなきゃ日当たりの良い場所なくなっちゃうんだった。」
とりあえず気まずくなったら逃げるが勝ち。
左手首の腕時計を見てそう言うと、二人に背を向け手を振った。
「じゃあまたね。」
笑って小走りでその場を去る。
振り返る事なんてしない。 目が合うと何だか気まずいから。
別に知らなくてもよかった情報を小耳に挟んでしまったなと思いながら、私は図書館に向かうべく今いた本館を出た。
「あ、。」
「あー小百合ちゃん。」
文学部のお友達、小百合ちゃんが図書館前で友達と喋っていた。
私に気が付くと手を振ってくれる。 今日も一段と可愛いなー。
「ねね、仁王君って知ってる?」
「お、ついさっき知ったよ。 どうしたの?」
「この子、朱音がね、明日合コンするんだって! いいなー羨ましいなー!」
「合コン? へえ、いいじゃん。 何人で?」
「三対三なんだけど…仁王君も来るって聞いてテンション上がったー!」
「仁王君がいる辺りの社会学部軍団ってレベル高いよねー! いいなー朱音っ!」
キャーキャー言う小百合ちゃん達は本当に楽しそうで、同時に仁王君ってそんなスゴイ人だったんだって今知った。
女子から人気だったなんて、知らなかったよ。 確かに男前だったもんね、仁王君。
「あ、ちゃん…って呼んでもいい? 私朱音って呼んでいいから。」
「うんいいよ。 でいいし。」
「ありがと、って彼氏とかいないの?」
「うん、今はいない。」
「えーマジで!? 意外ー! いそうなのにっ!!」
驚く朱音ちゃんと小百合ちゃん。
そうか?と思いながらもとりあえずへへっと笑った。
「え、じゃあ好きな人とか…いい感じの人とかは?」
「うーん、この間縁切ったばっかだし…いない、かな?」
「えーそうなの!? だったらも合コン来る!? 寂しくない?」
「ううん、いいよ。 大丈夫ありがとう。」
「そう? まあ、明日とか急だしね。 でもいつでも言って! 合コンなら私いつでも手配するし!」
「あ、ありがとう…。」
グッと親指を立てて素敵に笑う朱音ちゃんに、私はちょっとだけ一歩後ろへ下がった。
いい友達を持ったのか。 …うん、いい友達だ。
もし寂しくなったら合コンを手配してもらおう。 こういう友達も大切だと思う。
「あ、でも最近丸井君とちょくちょく一緒に居ない?」
「え?」
「え、丸井君!?」
小百合ちゃんが思い出したようにそう言った。
それを聞いた朱音ちゃんが目を見開いて驚く。
「ええー丸井君といい感じなの!? 丸井君ってあの仁王君と一緒に居る丸井君でしょ!?」
「いい感じっていうか…会ったらちょっと喋って、あとはちょくちょくメールしたり夜電話かかってくるくらいだよ。」
「マジ? 丸井君と電話したりすんの?」
「うん、するよ。」
「へーそれっていい感じなんじゃない? は丸井君の事どうなの?」
「え、どうって……」
「まさか、何も感じてないってワケじゃないよね?」
そう言って小百合ちゃんはニッコリ笑った。
何も……感じてなかったんですけど……。 うん、言いにくい。
「…あれ、でも丸井君って確か年上と付き合ってなかったっけ? 別れたのかな?」
朱音ちゃんが何か思い出したように首を傾げる。
へー年上の彼女、いたんだ。
そう知って、ちょっとだけ、胸がチクリと痛む。
でも気のせいだって、気付かないフリをした。
「それに、私はあんまりオススメしないな、丸井君。」
「え、何で?」
「だって…彼と付き合うのって難しそうだもん。」
「……そうなの?」
朱音ちゃんの言葉一つ一つが、私に圧し掛かる。
さっきより一段低くなった私の声に、二人は気づいていない。
胸が苦しくて、息をすることを忘れてしまいそう。
苦しい。 嫌だ。 これ以上何も、言わないでほしい。
「マイペースな人ってさ、合わせるの大変だし。」
「まあ、自己中だと大変だよね。」
「って言ってもそこも丸井君のいいところなんだけどね。 まあ頑張ってよ!」
「え、頑張るって…何を?」
「ま・る・い君に決まってるじゃん! 経過報告ちゃんとしてよねっ!」
そう言って彼女はニッコリ笑った。
だけど、私は笑えない。 彼女の誤解を否定する気も起きなくて。
ただ小さく。 小さく頷いてその場から立ち去った。
君の事を何も知らないって事に気が付いて、何だかすごく怖かったんだ。
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2009.02.12 執筆 サンキュウ・クラップ!
(知ってることの方が数えたら早いのはわかっていたけど。)