さよならソングは涙色 13

 

 

 

 

今もまだ好きだよ 好きなんだ 君が、好き

 

君が隣にいない事が こんなにも切ないなら

二人出逢わなければ 何度も思っては俯いて

いつだって目を閉じ浮かぶのは 君の笑顔と優しい手のひら

“前を向かなきゃ” わかっているけど

やっぱり君といたあの日々は消したくない 忘れられなくて

矛盾した想いに足をとられ 今もまだコノ場所から動けない

 

誰も居ない隣 今ではもう当たり前の毎日で

君の面影を思い出すたび 高鳴る鼓動

優しい口付け 初めて重なったあの日

目が合った瞬間 照れたようにお互い笑ったね

そんな儚い想い出 背負っているのは僕だけなのかな

君はもう新しい道を歩んで 僕じゃない誰かの隣で笑っているの?

 

嫌だよ いやだ

君のために流す涙 枯れ果てその意味も忘れた

名前も何も知らなかったあの頃

何も知らずに笑えたあの頃

戻れたのなら どれほど幸せなんだろう

 

叶わない願い 何度願ったって君はもうここに居ない

たとえ君が僕のモノでなくったって 僕はまだ…

 

 

 

「君が好き、ですから。」

 

 

 

街で擦れ違ったカップルを視線で追って。

いつかの自分と重ねて見てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校でも、会わない。

意識して捜しても、彼の赤い髪は見当たらなくて。

気が付けば、電話を無視してから二日が過ぎようとしていた。

 

 

 

「あ、もうすぐ試験だ。」

 

 

 

キャラクター物のスケジュール帳を開いて予定を確認。

試験の日まで、あと二週間を切っていた。

 

 

 

「やばいな、何もしてないや…。」

 

 

 

ボールペンの先をカチカチさせながらあと二週間をどう使うか対策を練る。

一応はちゃんと勉強しておかないと、落第なんてしたら親に殺されてしまう。

そんな大学生にだけは、なりたくないから。

 

 

 

「っ、」

 

 

 

着信の音にビクッと身体が震えて慌てて携帯を手に取る。

本当にこの突然の着信には身体が慣れてくれないらしい。

 

 

 

「……………丸井、ブン太。」

 

 

 

また、連絡してきてくれたんだ。

そう思うと、急に何だか泣きたくなった。

 

 

 

「…はい、もしもし?」

 

 

 

ドキドキしている心臓を抑え、ぎゅっと握り締めた携帯を耳に当てる。

電話越しから聞こえてきた声は、たった二日間しか経っていないのに、

随分と懐かしい響きを持って聞こえてきた。 すごく、胸が苦しい。

 

 

 

『ん、今日はちゃんと出たんだ。』

「…うん。」

『この間出なかったくせに。』

「ごめん、寝てたんだ。」

 

 

 

嘘を吐いて、息を吐いた。

詰まった息が一気に外へと排出された。

 

 

 

『ふーん、つってもメールもしてこねぇし。』

「!、うんっごめん、忘れてた…!」

『んだよそれ。 ……ま、別に良いけど。』

 

 

 

拗ねた声色。

ちょっとだけ、安心した。

よかった…怒ってない。

 

 

 

「ごめんね、本当にごめん。」

 

 

 

心からの“ごめん”だった。

本当に悪いと思ったから、謝らなきゃって思ったから。

 

すると丸井ブン太は黙り込む。 ちょっとだけ電話越しに沈黙が生まれた。

 

 

 

「……ごめん。」

 

 

 

もう一度謝る。

手元のスケジュール帳が、少しだけ霞んで見えた気がした。

 

 

 

『あーもうっ!』

「(びくっ) …っ何!?」

『最近テンション低いんだよ俺!』

「……そ、そうなの? (またそんな急に…。)」

のせいだからな!!』

 

 

 

目を瞬かせる。 携帯を持つ手が、震えた。

返す言葉を探していたら、電話越しから丸井ブン太の『あーもうっくそっ!』って言う声が何度も聞こえた。

 

 

 

「…な、何で私のせいなのさ!」

『何でも。』

「はあ? 意味わかんないよ。」

『とにかくのせいなの。 が悪い。』

「んな理不尽な…」

 

 

 

思っても、何故か口元は綻んでいて。

それに気が付いてちょっとだけハッとなった。

何で……笑ってんの私。

 

 

 

『つーわけでどうにかしてくれぃ。』

「無茶振りだよ。」

『無茶じゃねって。 どうにかして俺のテンション上げてくれ。』

「そんな事言われても……わかんない。」

『んーじゃーそうだな…』

 

 

 

考えているのか、ちょっとだけ間が空く。

そして丸井ブン太は、相変わらずの突拍子のない台詞をあっさり吐いた。

 

 

 

『映画行きたい。』

「…は、映画?」

『今すげぇ映画行きたい。 何か観たい。』

「え、映画ねぇ…」

 

 

 

ビックリしたけど、映画と言われて私の頭に浮かんだのは最近見たCM。

大ヒット上映中だと言っていた気がする。 まだやってるのかな。

すごく観たかったけど、きっとまたロードショーでやるからって諦めていた奴だ。

 

 

 

「うーん、映画だったら私、フラワーボーイが観たい。」

『FB?』

「そう、それ。」

 

 

 

“Flower Boy”略して“FB”。

今人気の少女漫画だった物が映画化された奴。

私の頭の中に、主演の男前の四人組がパッと浮かんだ。

 

 

 

『じゃあ決まり。 それ行こうぜぃ。』

「え、あ……うん…? でもまだやってるのかな。」

『調べて。』

「えー私が? 面倒くさい…。」

は優しいから調べてくれるだろぃ。 任せたぜぃ。』

「……いつ行くの?」

『いつでも。 お前いつ空いてんの?』

「いつでも。」

 

 

 

うーんとじゃあなー、と丸井ブン太が少し考える素振りを見せる。

私は彼の次の言葉を黙って待った。

 

 

 

『じゃあ明日。』

「あ、明日?」

『無理?』

「ちょっと待って……あ、空いてるけど。」

『じゃあ明日授業が終わった後な。 日付は早い方がいいだろぃ。』

 

 

 

手元にあったスケジュール帳を見て、明日の予定がないことを確認。

丸井君と映画、と。 さっそく新しく予定を書き加えると、急に胸が躍った。

 

 

 

『んじゃ、そういうことでちゃんと後で調べとけよ。』

「う、うん。 あ、でも明日私、五講義までしかないよ?」

『マジ? 俺六講義まであるぜぃ。』

「え、じゃあどうしよっか。 私図書館で待ってようか?」

『んー……サボろっかな。』

「え、ダメだよ。 授業ちゃんと出ないと。」

『…………。』

 

 

 

丸井ブン太がまた黙り込んでしまった。

うーん、本当は待つの嫌いだけど…サボらせるのも何か悪いしな。

そう考えて、私は丸井ブン太の返事を待った。

 

 

 

『ま、明日の気分に任せる。』

「は?」

『気分が乗れば授業出るし、乗らなかったらサボる。 これでいいだろぃ。』

「……まあ、丸井君がいいのであれば。」

『よしっじゃあこれで決まりな。 それじゃまた明日!』

「え、あ、うん…また明日!」

 

 

 

そう言って切れた電話。

突然の予想もしない展開に、私はただ一つ予定が増えたスケジュール帳を見つめる事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すっかり晴れていた心の蟠りに、気づく事はなかったけど。

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2009.02.14 執筆  サンキュウ・クラップ!

(何だかすごく明日が待ち遠しくて、それどころではなかったんだ。)