さよならソングは涙色 15

 

 

 

 

今もまだ好きだよ 好きなんだ 君が、好き

 

君が隣にいない事が こんなにも切ないなら

二人出逢わなければ 何度も思っては俯いて

いつだって目を閉じ浮かぶのは 君の笑顔と優しい手のひら

“前を向かなきゃ” わかっているけど

やっぱり君といたあの日々は消したくない 忘れられなくて

矛盾した想いに足をとられ 今もまだコノ場所から動けない

 

誰も居ない隣 今ではもう当たり前の毎日で

君の面影を思い出すたび 高鳴る鼓動

優しい口付け 初めて重なったあの日

目が合った瞬間 照れたようにお互い笑ったね

そんな儚い想い出 背負っているのは僕だけなのかな

君はもう新しい道を歩んで 僕じゃない誰かの隣で笑っているの?

 

嫌だよ いやだ

君のために流す涙 枯れ果てその意味も忘れた

名前も何も知らなかったあの頃

何も知らずに笑えたあの頃

戻れたのなら どれほど幸せなんだろう

 

叶わない願い 何度願ったって君はもうここに居ない

たとえ君が僕のモノでなくったって 僕はまだ…

 

 

 

「君が好き、だからね。」

 

 

 

誰もいない、駅のホーム。

口笛吹いて、風に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かりかりかりかりかりかりかりかり。

止む事のない、ペンが走る音。

 

 

 

「あーもうめんどくせぇ!」

「まだ十分も経ってないよ。 頑張れ。」

「ちょい糖分補給。」

「飲むの早ッ!」

 

 

 

映画館の近くにあったカフェ。 向かい合って試験勉強。

私の手元には、まだ八分目も残っているカフェラテが。

丸井ブン太の手元には、もう氷しか残っていないマンゴートロピカルジュース。

頭を使うと甘いモノを欲するのはわかるけど…友達のノート写してるだけで何故そこまで糖分を失うんだ。

 

 

 

、何の勉強?」

「英語。 私ビックリするぐらい苦手だから早めにやっておかないと大変な事になるからね。」

「ディス イズ ア ペーン。 よっしゃ、これだけ覚えてりゃ完璧だ。」

「んなワケないでしょ。 ワット イズ ディス、これも重要だよ。」

「ぷぷっ、どんだけ低レベル。」

「うっさい。 ていうかこんな基礎中の基礎、大学生にもなって絶対出ないし。」

「だな。 出たらナメてんな。」

「出ないに千円。」

「出ないに一万。」

「賭けになってないじゃん。」

「じゃあこの賭けはなかったことに。」

 

 

 

そう言って丸井ブン太は再びノートを写しにかかる。

ノートを盗み見る。 どちらもミミズが踊っているように汚かった。

 

 

 

「くそっ杏璃の字汚すぎて読めねぇ!」

「…それ、杏璃のだったんだ。 確かにあの子字汚いね。 いつも殴り書きしてるもん。」

「だろぃ。 何だよこれ。 もはや字ですらねぇじゃん。」

「何で杏璃の借りたのさ。 授業半分以上寝てるらしいし、ノート当てになんないんじゃ…」

「明日提出なのに今日誰も持ってなくてさー。 アイツ学校から下宿先近いから取りに行かせた。」

「まあないよりマシって奴ね。」

「その通り。 取りに行くのにさー俺のバイクの後ろ乗っけてやったんだけどアイツ怖い怖い叫んでマジうっさいの。」

「?、丸井君バイク通学してんの?」

「おう。 県外つってもそんな家遠くないしな。 神奈川だし。」

「へーそうなんだ。 神奈川なんだ。」

 

 

 

ふんふん頷きながらカフェラテをごくり。 おや?

 

 

 

「じゃあ今日バイクは?」

「学校置いてきた。 今日は電車で帰って明日乗って帰る。」

「言ってくれれば私一人で電車に乗ったのに。 丸井君はバイクで駅まで行ってくれてよかったんだよ?」

「いーの別に。 てかそれ可笑しいだろぃ。」

「えーでも…、」

「はいこの話終わり。 んで俺もノート写すの終わり。」

 

 

 

ばちんっとノートを閉じてテーブルの上に放る。

私に気を遣わさないために話題を変えたのがわかったので、私もあえてその厚意に甘える事にした。

 

 

 

「…早いよ。 一ページしか写してないじゃん。」

「今日徹夜してやるからいいの。 俺やれば出来る子だから。」

「どうだか。 信用できないなー。」

「んじゃあが十分おきに電話して起こしてくれりゃいいし。」

「ヤダよ。 何で私も一緒に起きてなきゃならないのさ。」

「道連れ?」

「一人で頑張ってください。」

「ちぇー、ケチだな。」

 

 

 

唇を尖らせて椅子の背もたれに身体を預ける丸井ブン太。

私も一先ずペンを置き、残りのカフェラテを一気に飲み干した。 …うえ、ちょっと苦い。

すると、テーブルの上に置いてある丸井ブン太の携帯の着信ランプが

突然チカチカとカラフルに点滅を始めたのに気が付いた。

 

 

 

「あ、携帯光ってるよ。」

「ん、ホントだ。 杏璃かも。」

「?、そーなの?」

「さっきメールしたし……って違った。 仁王だ。」

「仁王君?」

「ん、出席出せたって。 つーか杏璃俺のメール無視かよ。」

 

 

 

前屈みになって携帯のボタンをポチポチ押しながら「ふざけんな。」と言って拗ねる。

そういや杏璃今日午後から授業ないって言ってたっけ。 何してんだろ。 家で寝てるのかな。

いや、もしかしたら彼氏と一緒にいるのかも。 だって昨日彼氏が明日泊まりにくるって言ってたし。 もう来てんのかも。

それを伝えると、丸井ブン太はより一層表情を歪ませて更に不満気な声を上げた。 何、どうした。

 

 

 

「俺のメールより彼氏とったんかアイツ。」

「だって杏璃彼氏と居る時メール返してくれないもん。 彼氏しか見えてないんだよ。」

「確かアイツの彼氏って年上だったっけ?」

「うん、一個上だって。 いーねぇ年上。」

「…お前年上好き?」

「うーん、好きってワケでもないけど…年下以外なら別に特に拘らないよ。」

「まー確かに年下はねぇな。 …でも俺、年上はもう嫌だ。」

「………、っ年上?」

 

 

 

フッと笑って丸井ブン太は視線を逸らす。 「そう、年上。」と言ったきり、彼は口を閉ざした。

年上と聞いて咄嗟に私の頭に浮かんだのは、数日前の朱音ちゃんとの会話。

今の言葉からして、やはり彼女の予想は当たっていたらしい事を知った。

どうやら噂の年上彼女とは別れているらしい。

その事実を知って、何だろう、ホッとしたような、複雑な気持ちが沸き起こる。

しかも、もう嫌だって、何があったんだろう。

少し気になるけど、訊いてもいいのかわからなかったので訊けなかった。

ちょっとだけ気まずい雰囲気が出来てしまったなと思いながら、そんな彼を真正面から見つめた。

 

 

 

「でも年上って、奢ってくれるし…私は別に嫌じゃないよ。」

「それはな。 俺もずっと奢ってもらってたし、年上の利点だよな。」

「だよねー、私常お金ないから助かる。 杏璃も奢ってもらってるのかな…。」

「…いや、アイツは逆に貢いでそうかも。 だってアイツかなりドМだし。」

「そーいや彼氏病的なドSつってたわ。」

「じゃーやっぱ貢いでんなアイツ。」

「まあドМとドSでいいコンビだと思うよ、あの子ら。」

 

 

 

何とか会話の流れが元の杏璃と彼氏の話に戻って空気も元通り。 ふう、よかった。

ちょっとだけ気になったけど、また話を元に戻してこれ以上気まずくなりたくなかったので、

とりあえず私の知りたいという欲求は我慢する事にする。 それがいいのだ。

 

 

 

「かく言うお前はドSだな。」

「失礼な、違うよ。 それは君でしょ。」

「俺は男だし当たり前だろぃ。 男がドМとか気持ち悪ぃじゃん。」

「まあ確かに。 キモイね。」 

「だろぃ。 は普段の会話からして毒舌だしSっ気を感じるんだけど。」

「えー私毒舌? あ、あれだよ、あれ。 普段はドSで夜はドМ派。 きっとSとMを使い分ける女なんだ私。」

「…アホか。」

 

 

 

私の悪乗りした返答に呆れ顔を見せながらも、ぷっと笑って丸井ブン太は立ち上がる。

空になった二つのカップが乗ったトレイを持って「さーて飯行くか、飯。」とまだノートをしまっていない私に向かって言った。

あれ、カフェ行ってすぐご飯ですか? なんて疑問が浮かんだけど、彼の胃袋を考えれば当たり前だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時の私は、寂しがり屋の君の支えに少しでもなれていたのかな。

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2009.02.15 執筆  サンキュウ・クラップ!

(もしかしたら、知らないうちにたくさん傷を付けていたのかもしれないね。)