さよならソングは涙色 19

 

 

 

 

今もまだ好きだよ 好きなんだ 君が、好き

 

君が隣にいない事が こんなにも切ないなら

二人出逢わなければ 何度も思っては俯いて

いつだって目を閉じ浮かぶのは 君の笑顔と優しい手のひら

“前を向かなきゃ” わかっているけど

やっぱり君といたあの日々は消したくない 忘れられなくて

矛盾した想いに足をとられ 今もまだコノ場所から動けない

 

誰も居ない隣 今ではもう当たり前の毎日で

君の面影を思い出すたび 高鳴る鼓動

優しい口付け 初めて重なったあの日

目が合った瞬間 照れたようにお互い笑ったね

そんな儚い想い出 背負っているのは僕だけなのかな

君はもう新しい道を歩んで 僕じゃない誰かの隣で笑っているの?

 

嫌だよ いやだ

君のために流す涙 枯れ果てその意味も忘れた

名前も何も知らなかったあの頃

何も知らずに笑えたあの頃

戻れたのなら どれほど幸せなんだろう

 

叶わない願い 何度願ったって君はもうここに居ない

たとえ君が僕のモノでなくったって 僕はまだ…

 

 

 

「君が好き、に決まってんじゃん。」

 

 

 

ある時ふと思うんだ。

君と出逢って、私は本当に幸せだったのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、何て顔してんのアンタ。」

 

 

 

そう言われたのは授業の空き時間。

ちょうどこの日の四講義目は杏璃も講義を取っていなかったので、一緒に屋外のカフェテリアへ。

アイスキャラメルラテをズルズル啜っていてたら、眉間に皺が寄っていると指を指された。 あ、ホントだ。

 

 

 

「そーいえば、昨日どうだったの?」

「昨日? あー昨日?」

「何で二回言うのよ。 で、どうだったの? 楽しかった?」

「うん、まあまあ。 でも映画の内容なんて覚えてないや。」

「はあ、何で?」

「半分意識飛んでたから。」

「寝てたの?」

「うん、まあそんなところ。」

 

 

 

ストローで氷を掻き混ぜながら目を逸らす。 嘘は、吐いていない。 確かに眠かった。

 

 

 

「で、どうなの?」

 

 

 

鋭く光る目が私をとらえる。

どうやら僅かに見せた動揺を彼女は見逃してくれる気はないらしい。 ちぇー。

杏璃は友達だし…別に隠す事でもないので、改めて口で言う気恥ずかしさからちょっと目を泳がせながらボソリと呟いた。

 

 

 

「…………キスされたよ。」

「え! マジで!?」

「…マジで。」

 

 

 

ストローを回しながら照れ隠しにへへっと笑う。 やっぱり口に出して言うと何か照れるや。

どうやら本当に何かあったとは思っていなかったらしく、杏璃は目を見開いて驚いていた。

 

 

 

「え、告白は…」

「されるわけないじゃん。 だって…友達、でしょ。」

「え、あ…アンタら友達…なんだよねぇ?」

「友達っていうか…うん、友達だよ。」

「だと私も思ってたんだけど…。」

「…友達でもキスするんだね、丸井君って。」

「っはあ〜、それにしてもビックリだわ。 案外そう思ってたのはだけだったのかもしれないね。」

「まさか。」

 

 

 

ははっと笑ってラテを啜る。 ごくんと飲み込んではあ、と大きく息を吐いた。

 

 

 

「え、どんな風にされたの? ていうか何処で?」

「…映画館で…こう、頬に手が触れて…」

「ちょっマジで!? 何ムード作っちゃってんのよ! 、一から昨日のデートの経緯を話しなさい!」

「……えー、面倒くさ。」

「いいじゃん話してよ!」

 

 

 

一からってどこから? 授業終わった後くらいから?

どんな感じだったっけ、なんて頭で考えながら渋々昨日の一部始終を杏璃に話す。

その間杏璃は嫌にニマニマしながら聞いていたからちょっと話し辛かった。 やめてよ、その顔。

 

 

 

「はあ〜何アイツ! 手出すの早いね。」

「確かに。 ビックリした。」

「そりゃビックリするよー! 私だって想像つかなかったって! だってそんな素振りちっとも見せなかったじゃんアイツ。」

「…うん。」

「女友達は確かに普通以上に多いし常に女といるけどホント全部友達だしね。 だからてっきりにもそんな感じで接してたのかと…」

「だよねぇ。 私もそう思ってたずっと。」

 

 

 

片肘をついて頬を乗せる。

ウィンドーの向こうは暖かな日差しが差し込んでいて、眩しかったからちょっとだけ目を細めた。

 

 

 

「メールとか電話が来る度に、みんなにも同じことしてるんだろうなって…ちょっと思ってた。」

「そうそう、のアドレス聞かれた時もさ、私普通の友達として聞いたんだと思ってた。 …ねえ、ブン太からのメールとかってどんな内容なの?」

「うーん、どんなって…どんな内容なんだろう。」

「何かあるでしょ。 何でもいいから言ってよ。」

「………メールしろとか電話出ろとか?」

「はあ?」

 

 

 

咄嗟に浮かんだのが、メール催促の内容だったり。 って、いきなりそんな内容を言われても困るか。

どうやら予想通り状況把握できなかったらしく、杏璃は意味わかんないと言いながら首を傾げた。 そりゃそうだよね、ごめんね。

でも他の内容を思い出そうとしてもこれと言って出てこなかったので、とりあえずテーブルの上に置いてあった携帯を開いてみる事にした。

 

 

 

「おや、もうこんな時間だ。」

「ちょっとまだ話終わってないじゃん!」

「うんでも次の授業に遅れちゃうから今日はここまでね。」

「はあ〜? ふざけんなっ!」

「ふざけてないよ。 またちゃんと話すから怒らない怒らない。」

「何か今のアンタのその顔ムカつくー!」

「むっ、何でよ。」

 

 

 

一気に飲み干したラテの入っていたグラスを持って席を立つ。

そんな私を見て、杏璃は「絶対全部聞き出してやるから!」という捨て台詞を吐いてシッシッと手を振った。

 

 

 

「杏璃行かないの?」

「あー、次授業一緒に受ける友達が来てくれるから待ってるの。」

「そっか。 じゃあまた明日ね。 バイバイ。」

「はいはいバイバイ。」

 

 

 

今度はちゃんとヒラヒラ手を振って私を見送ってくれる。 でもちょっと早く行けば?ってオーラ出てるよ杏璃ちゃん酷いなー。

杏璃の私への扱いに不満を抱きながら、少し唇を尖らせ私は空のグラスを返却口の隅に置いてカフェテリアを出て行った。

 

 

 

(あ、エレベーター止まってる。)

 

 

 

ラッキーなんて思いながらカフェテリアからエレベーターまで一直線の廊下をさっきより急いで歩き出す。

間に合え間に合えドアお願いだから閉まるな待つの嫌なんだ。 閉ーまーるーなー。

必死に念を送りながらこっちへ向かってくる五人組の集団の横を通り過ぎる。

 

 

 

「!」

。」

「あ、丸井君…、」

 

 

 

腕を捕まれビックリして立ち止まる。 あ、エレベーターが! ……ちぇー。

エレベーターのドアが閉まったのを遠目で確認した私はちょっとだけ肩を落とす。

全然見えてなかったけど、五人組の中には丸井ブン太がいて、仁王君と女の子三人を引き連れていた。

 

 

 

「…おはよ。」

「もうお昼過ぎてるよ?」

「わかってるっつの。 そーいやもうすぐおやつの時間だな。」

「カフェテリア行くの?」

「そ。 次空き時間なの、俺。 羨ましいだろぃ。」

「えーいいなー。 私も今空き時間だったけど。」

 

 

 

はははーって笑って顔を上げると丸井ブン太と目がばっちり合う。

すると一瞬、間が空いてお互い閉口した。 別にギャグを言ったわけでもないからスベッたわけでもない。

ただ、私と丸井ブン太の間に、妙な空気が流れてしまっただけ。

 

 

 

「あ、じゃあ私授業行かなきゃなんで……」

「おお、昼寝してヨダレ垂らすなよ。」

「最近口緩いから気が付いたら垂れてんだよねぇ。 寝る時ハンカチ欠かせないよ。」

「きったねぇなお前。」

「うっさいなー垂れるもんは垂れるんだ。 丸井君のイビキよりマシだし。」

「バカ寝息って言え。 てかお前俺のイビキ聞いたことねぇくせに。」

「杏璃が言ってたもん。 丸井君イビキうるさいって。」

「はあ!? っアイツ余計なこと吹き込みやがって……じゃあな!」

「イタッ、え、あ、うんバイバイ!」

 

 

 

バシンと背中を叩かれて思わず前へつんのめる。 …何で叩かれたんだ私。

ちょっとだけ振り返ると、丸井ブン太が待たせていた友達に「わりっ」と謝って輪の中へと入っていくのが見えた。

背中がやけにジンジンする。 杏璃への怒りが背中を押す力に加わってしまったのだろうか、痛いな…。

前を向いて行ってしまったエレベーターを待つの面倒だと思いながら再び足を一歩踏み出すと、

もう一度「。」と呼ばれる声がして思わず勢いよく振り返った。 すると、丸井ブン太が笑って

 

 

 

「今日メール、忘れんなよ!」

 

 

 

って言って背中を向けるから、暫くの間、私はその背中から目が離せなくなってしまった。

一秒、二秒、三秒。 チャイムが鳴って漸くハッとする。

慌てて踵を返してエレベーターホールへと向かって駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君はいつだって、一歩先の未来を私に約束してくれたんだ。

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2009.02.26 執筆  サンキュウ・クラップ!

(だけどそこに、友達という一線を引いていたのは、私だったの。)