さよならソングは涙色 02
今もまだ好きだよ 好きなんだ 君が、好き
君が隣にいない事が こんなにも切ないなら
二人出逢わなければ 何度も思っては俯いて
いつだって目を閉じ浮かぶのは 君の笑顔と優しい手のひら
“前を向かなきゃ” わかっているけど
やっぱり君といたあの日々は消したくない 忘れられなくて
矛盾した想いに足をとられ 今もまだコノ場所から動けない
誰も居ない隣 今ではもう当たり前の毎日で
君の面影を思い出すたび 高鳴る鼓動
優しい口付け 初めて重なったあの日
目が合った瞬間 照れたようにお互い笑ったね
そんな儚い想い出 背負っているのは僕だけなのかな
君はもう新しい道を歩んで 僕じゃない誰かの隣で笑っているの?
嫌だよ いやだ
君のために流す涙 枯れ果てその意味も忘れた
名前も何も知らなかったあの頃
何も知らずに笑えたあの頃
戻れたのなら どれほど幸せなんだろう
叶わない願い 何度願ったって君はもうここに居ない
たとえ君が僕のモノでなくったって 僕はまだ…
「君が好き、だよ。」
届く事のない歌を、今日もまた君を想って口にする。
「うっまそ。」
真昼間の大学の食堂。
溢れかえる人。
今日もまた、騒がしい。
ゆっくりと顔を上げる。
赤い髪の少年が目をキラキラさせて私のお弁当を覗き込んでいた。
ちなみに、私のフレンズは私を残してお手洗いだ。
ぐーきゅるきゅる。 …早く食べたいな。
「一口ちょーだい。」
「……ヤダ。」
丸井ブン太。
名前はちゃんと覚えてる。
本来何の接点もないはずの、同じ大学の人。
「いいじゃん一口ぐらい。 手作り?」
「私のお母さんのね。 ところで、君のトレイに乗ってる量半端ないけど、それ全部君の?」
「ん、あったり前じゃん。」
「………。(おえ、)」
よく食べる、彼のデータへが新しく加わった。
「ーお待たせー。 ってブン太じゃん。」
「よっ杏璃何かくれぃ。」
「…会って第一声がそれ? ほら、私の味噌唐揚げ丼ちょっとだけなら食べていいよ。」
「サンキュー、全部?」
「ちょっとだけ!」
嬉しそうに丼鉢を受け取ってがっつく丸井ブン太。
ストップ、と言って丼鉢を取り上げる杏璃。
初めて見る組み合わせなのに、違和感はあまり感じなかった。
二人の仲よさげなやりとりを眺めながら待ちに待ったお弁当を頬張る。
もぐもぐもぐもぐ、ぐぐっ、詰め込みすぎて気管にっ…!!
「げほごほっ!」
「ちょっと何咽てんのよあんた…お茶飲みなよ。」
「…お腹空きすぎたあまり…意地汚いことをしてしまった。 げほっ。」
「ぷっ、バッカだなーお前。」
うるさいやい。
自分でもバカだなって反省したところだったんだ。
「そーいや杏璃、次の時間さー、」
まだ立ち去らないのか、そう思いながらもう一度ご飯を懲りずに口へと運ぶ。
丸井ブン太は社会学部同士の次の講義の話を始めてしまったので私は完全なるアウェイ。
ただ黙々と二人の会話に耳を傾けながらお弁当を掻っ込むことに専念した。
今日のご飯は昨日の残り物か、少し硬い。
「。」
「………はい?」
「じゃあな。」
どれくらい経ったのか。
いや、一分も経ってなかったのか。
とりあえずぼんやりとした意識の中、急に丸井ブン太の声によって現実に引き戻されたと思いきや、
彼は私の頭を数回ぽんぽんと叩いて自分の仲間が待つ席の方へと歩いて行ってしまった。
…何だったんだ一体。
「…ってブン太のこと知ってたの?」
「え? いや、知ってるって言うか……向こうは知ってるっぽい?」
「えー何ソレ。 あれかな、、私とよく一緒にいるから知ってんのかな。」
「…そうかも。 杏璃のこと知ってる?って聞かれたし。」
「あはは、そうなんだ。 トイレから帰ってきたらがブン太と話してたからビックリしたよ。」
そう言って笑った杏璃とは、学部は違うけどサークル仲間。
私は入って一ヶ月も経たない間にサークル辞めちゃったけど、杏璃はまだ続けてるらしい。
らしいって言うのは、辞めたとも聞かないし、やってるとも聞かないから。
つまりあんまりサークル関係の話はしない。 杏璃が気を遣ってくれているからかもしれない。
「そういや杏璃この間付き合った先輩の彼氏とはどうなったの?」
「えへ、順調だよ。」
「いいねー羨ましいや。」
「そういうだって他大学にいい感じの人いるって言ってたじゃん。 どうなったの?」
「さあ、来週会う約束はしてるけど…乗り気しない。」
「またそう言う…」って言いながら杏璃は呆れた溜め息を吐いた。
我ながら、病的な面倒くさがりだとは思う。
この方、彼氏と長く続いた事などない。
はっきり言って恋愛下手。
「あんまり、好きって気持ちがよくわかんない。」
「…高校の時好きだった人は?」
「本当に好きだったのか、今でもわかんない。」
えー何なのそれ、と言いながら丸井ブン太が食べた丼を食べ始めた。
過去の私の恋愛歴、杏璃には全て話したようで、話していない。
結局自分自身も理解できていないから、話せているのかわからないだけ。
でもはっきり言えるのは、大した恋愛をしてこなかった、ということ。
「ま、とにかく早く男作っちゃいなさいよ。 大学入ってまだそんなに経ってないけど、まだ一人もいないでしょ?
別に男寄ってこないわけでもないのに、何でなんだろーね。 あんまり続かないよね。」
「途中で面倒になるっていうか…ある一定のところまできたら深入りされるのが、嫌なの。」
「何か隠し事でもあるの?」
「え、別にないよ。」
深入りされると、のめり込んでしまうから。
私が逃げ出す事、出来なくなってしまうから。
それが、怖い。
「失うのが怖いから、ヤなんだろーね。」
相手との距離が近いと尚更。
私はきっと、断ち切れなくなっちゃうから。
だから君という存在が私にとって、恐怖でしかなかったのかも。
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2009.02.10 執筆 サンキュウ・クラップ!
(今だからわかることなんだけど。)