さよならソングは涙色 20

 

 

 

 

今もまだ好きだよ 好きなんだ 君が、好き

 

君が隣にいない事が こんなにも切ないなら

二人出逢わなければ 何度も思っては俯いて

いつだって目を閉じ浮かぶのは 君の笑顔と優しい手のひら

“前を向かなきゃ” わかっているけど

やっぱり君といたあの日々は消したくない 忘れられなくて

矛盾した想いに足をとられ 今もまだコノ場所から動けない

 

誰も居ない隣 今ではもう当たり前の毎日で

君の面影を思い出すたび 高鳴る鼓動

優しい口付け 初めて重なったあの日

目が合った瞬間 照れたようにお互い笑ったね

そんな儚い想い出 背負っているのは僕だけなのかな

君はもう新しい道を歩んで 僕じゃない誰かの隣で笑っているの?

 

嫌だよ いやだ

君のために流す涙 枯れ果てその意味も忘れた

名前も何も知らなかったあの頃

何も知らずに笑えたあの頃

戻れたのなら どれほど幸せなんだろう

 

叶わない願い 何度願ったって君はもうここに居ない

たとえ君が僕のモノでなくったって 僕はまだ…

 

 

 

「君が好き、だからね。」

 

 

 

君は知らないだろう。

私がこれほどまでに、君を好きだったなんてこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ。」

 

 

 

ビックリして振り返る。

ニヤニヤ顔の、丸井ブン太。

 

 

 

「何、お前も説明会出んの?」

「うん、だって奨学金貰えないと困るもん。 丸井君も?」

「おう、俺んち弟二人居るからな。 奨学金貰わねぇとやってけないんだわ。」

「へー弟いるんだ。」

 

 

 

意外だというか…やっぱりかというか…丸井ブン太ってお兄ちゃんなんだ。 

何となく、年下の子ども好きそうだとは思ってた。 何だかんだ面倒見もいいし。

 

今日はお昼休みを使った奨学金の説明会。

と言っても、たぶんあまり関係ないどうでもいい事をぺらぺら喋っているだけだろうけど。

何て言ったってもうとっくに手続きも何もかも済んでいるから、きっと今日の説明会はつまらない事間違いなしだ。

でも一応聞いておかないと気がすまないのが私。

 

私の後ろの席に座った丸井ブン太はさっそく大きな欠伸を零していた。

 

 

 

「その携帯、ちょい貸して。」

「何すんの?」

「プリクラ見んの。」

 

 

 

私の携帯を手にすると、携帯の裏に貼ってあるプリクラをじっと見つめる丸井ブン太。

高校の時の友達と撮ったプリクラと大学に入ってから撮ったプリクラが数枚貼ってある。

それを一枚一枚食い入るように見つめている丸井ブン太を横目に、始まった説明会に少しだけ耳を傾けた。

 

 

 

髪伸びたなー。 これ高校の時のだろぃ? ミディアムっつーの? そっちのがいいじゃん。」

「えー長いのがいいよ。 成人式まで伸ばすんだー。」

「まだまだじゃん。」

「伸ばすのって大変なんだよ。 結構時間かかるんだから。」

「俺短めのが好きかも。」

「私は長いのに憧れるの。 結構伸びてて私的には今いい感じなんだ。」

 

 

 

肩下まで垂れ下がるように伸びた髪の襟足を両手で掬う。

カラーリングやホットカーラーのせいで少しだけ痛んだ毛先がちょっとだけ不快だ。 近いうち、毛先だけでも切ろうかな。

 

 

 

「にしても、何か友達ギャルっぽいな。」

「この子綺麗でしょ? 学年一美人だったんだよ。 私の自慢の友達なんだー。」

「んー化粧濃くねぇ? もうちょい薄い方がいい。」

「えー濃くないって。 綺麗だから別にいいの。」

「そーかー? もちょっと今と雰囲気違うよな、これ見てると。」

「…そう? 何も変わってないと思うけど…。」

 

 

 

変わったと言えば少し髪が伸びた事と、少しだけ髪の色が明るくなった事くらい。

化粧方法も大して変えてないし、何しろ中学の友達に会っても「変わらないね。」ってよく言われるほどだ。

一体何が変わったと言うのだろうか。 変わったなんていう初めての意見に、少しだけ戸惑う。

 

 

 

「やっぱ俺、今ののが好き。」

「…それはどうも。 あんまり変わってないと思うんだけどなー。 髪だけで変わるのかな、印象って。」

「そーかもな。 確かにこれと比べたら結構伸びたじゃん。」

「でも毛先が痛んできてるからそろそろ切った方がいいかも…よく考えればもう半年くらい切ってない気がする。」

「半年ぃ? お前どんだけ面倒臭がりなんだよ、切れ。」

「でもやっぱりここまで放置してたらなんだか今更切りたくないなー。」

「切れ! 絶対切れ!」

 

 

 

後ろから髪をぐいぐい引っ張られてちょっとだけ背中が仰け反る。 痛い痛い痛い…。

 

 

 

「わかったよ…気が向いたら切る。」

「気が向かなくても切れ。」

「だってね、私の目標はこう…髪で胸が隠れるくらいの長さまで伸ばすことなんだ。」

「んなこと知ったこっちゃねぇ、切れ。 それに切った方が伸びんの早くなるって言うだろぃ。」

「まあそりゃそうだけど…やっぱり何か面倒なんだなー。」

「…ったく、この面倒臭がり屋。」

 

 

 

携帯を手のひらにポンと置かれる。

丸井ブン太が言う程そんなに私面倒臭がり屋じゃないんだけどな。

でも確かに、そろそろ切った方がいいのかもしれない。

大学入る前にカラーリングした髪は、天辺がもう地毛になっている状態だし。

 

 

 

「うん、でもやっぱお祭までは切らない。 浴衣にはロングのが可愛いし。」

「祭? あー今週末の?」

「そ、杏璃と杏璃の友達と行くの。 浴衣着るんだ!」

 

 

 

今私の一番の楽しみはこれだ。

前に丸井ブン太と言った映画館がある街一体で行われる巨大なお祭。

結構有名なお祭だから人も沢山来るだろう。 今から想像するだけで気分がウキウキだ。

試験前だからちょっと気が引けるけど、気晴らしがてら杏璃ん家泊りがけで行く予定だった。

 

 

 

「へー写メ送れよ。」

「何でさ。 恥ずかしいよ。」

「浴衣着るんだろぃ? 見たいじゃん。」

「…気が向いたらね。」

「無理、絶対送れよ。」

 

 

 

丸井ブン太は「やっぱ女は浴衣だよなー」って言いながら一人で自分の理想について語りだす。

それに耳を傾けることなく適当に頷いておく。 うーん、当日何色の浴衣着ようかな。

 

 

 

「丸井君は行かないの?」

「んーテニスあるからな。 行けない。」

「えーそんな時までテニスあるの? 何か可哀想。」

「だろぃ? 祭ん時くらい休みでもいいのにな。」

「へーじゃあ行かないんだ。 せっかくのお祭なのにね。」

「うん、まあテニス終わって余裕があったら行くかもだけど。 たぶん行かねー。」

 

 

 

食べるの好きな丸井ブン太だから、お祭とか行ったらきっとはしゃいで色んな出店を渡り歩くんだろうなって想像する。

簡単に想像できるのが逆に怖かったけど、でも彼らしいと思ってちょっとだけ笑みが浮かんだ。

 

 

 

「ちぇー行きたかったなー。 まあでも、地元の祭もあるしな。」

「そうそう、地元もあるじゃん。 私なんて地元のお祭今年は予定あって行けないんだよ。」

「そーなん?」

「うん、毎年行ってるから行きたかったのに…何となく悔しい。」

 

 

 

そう言って唇を尖らせると、丸井ブン太は肩肘をついて私を見つめた。

 

 

 

「じゃあ神奈川の祭来ればいいじゃん。 俺が案内してやるよ。」

「え、神奈川?」

「そ。 夏休みにあるから、案内してやるって。 それも地元じゃ結構有名ででかい奴だから。」

「そうなの? えー行きたい行きたい!」

「んじゃ行こうぜぃ。 約束な、。」

 

 

 

ポンと頭に被さった彼の手のひら。

久しぶりの感触に、ちょっとだけ、胸が騒いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひとつ、またひとつと増えていくキミとの約束。

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2009.02.26 執筆  サンキュウ・クラップ!

(この約束が果たされる事は、なかったけど。)