さよならソングは涙色 22

 

 

 

 

今もまだ好きだよ 好きなんだ 君が、好き

 

君が隣にいない事が こんなにも切ないなら

二人出逢わなければ 何度も思っては俯いて

いつだって目を閉じ浮かぶのは 君の笑顔と優しい手のひら

“前を向かなきゃ” わかっているけど

やっぱり君といたあの日々は消したくない 忘れられなくて

矛盾した想いに足をとられ 今もまだコノ場所から動けない

 

誰も居ない隣 今ではもう当たり前の毎日で

君の面影を思い出すたび 高鳴る鼓動

優しい口付け 初めて重なったあの日

目が合った瞬間 照れたようにお互い笑ったね

そんな儚い想い出 背負っているのは僕だけなのかな

君はもう新しい道を歩んで 僕じゃない誰かの隣で笑っているの?

 

嫌だよ いやだ

君のために流す涙 枯れ果てその意味も忘れた

名前も何も知らなかったあの頃

何も知らずに笑えたあの頃

戻れたのなら どれほど幸せなんだろう

 

叶わない願い 何度願ったって君はもうここに居ない

たとえ君が僕のモノでなくったって 僕はまだ…

 

 

 

「君が好き、なんだけどさ。」

 

 

 

もう振り返らない。

ちゃんと踏み出さなきゃ。

何度も思っては、君の面影がチラついて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頭いったーい…。」

 

 

 

お日様がぽかぽかした人が極端に少ない車内。

一人で頭を抱えて小さく呟く。 大丈夫。 誰も、聞こえちゃいない。

 

 

 

「あー………やっちゃった。」

 

 

 

今まで何回後悔してきただろう。

一度の高ぶった感情で行動を起こしてはいけないと、何度心に誓った事だろう。

そんなもの、アルコールが入った時点で関係なくなっているのだけれど。

判断力鈍っちゃうんだよね。 あーあ。

 

 

 

「それにしても、何でアイツらまで杏璃ん家泊まってんだって。」

 

 

 

結局あの後、全員が杏璃ん家へ向かった。

飲みなおすってことはなかったけど、コンビニで買ったアイスをみんなで頬張った。

だけど結構力尽きていた私はアイスを食べてすぐに浴衣を脱いでジャージに着替えて杏璃のベッドを占領。

みんなはまだまだ元気が有り余っているみたいだったから私だけ勝手に寝ることにした。

 

で、だ。 起きてすぐに違和感を感じる。

後ろから伸びたゴツゴツした手が私を包み込んでいて、身動きがとりにくくなっていた。

その手の位置が、胸元と脇腹辺りを掴んでいるから恐ろしい。 無意識なのかな。

とりあえず恐る恐る顔を反転させると、彼がいた。

 

 

 

(景吾君って、マジで結構遊んでるよね。)

 

 

 

寝ていたから何か言おうとも思わなかったけど、抱いた感情は唯一つ。

どうしようもない男だな、これのみだ。

彼が起きようが起きまいがどうでもいいが普段より重くダルい体を無理矢理起こし、

お酒のせいで粘り気が強く乾いた口をさっさと洗いにベッドから立ち上がる。

床には大の男が二人と、この家の住人が夢の中へと旅立っていた。

 

 

 

「あ、そだ。 メールしとかなきゃ。」

 

 

 

黙って家を出てきたんだ。 家の住人の杏璃には連絡を入れておかないと。

私より先に起きた咲ちゃんはとっくに帰ったんだろう。

私の携帯に一斉送信で「先に帰るね。」と一言入っていた。

あの家に女である杏璃一人を残して帰るのは気が引けたけど、仕方がない。 それに何だかんだ大丈夫だと思うし。

昨日の話を聞いていれば、侑士君がロックオンしているのは咲ちゃんでしょ。 まあ本気かは別として。

それに侑士君は結構ああ見えても常識人だ。 昨夜の私の奇行を冷静に止めに入ってくれていたし。

岳人君は騒ぐのが好きなだけで特に危険分子ではない。

問題はあの景吾君だけど、何か仕出かしたらきっと先ほどの二人が止めてくれるだろう。

杏璃も意思がしっかりしてるし、流される事はまずない。

よって出した結論は、大丈夫。 って私は単純だろうか。

 

 

 

(そういや、もうすぐテストだなー。)

 

 

 

すっかり忘れていたが、土日が明けると試験が始まる。

何週間も前から地味にコツコツやっていたつもりではあるが、ただやっているだけであって頭にはこれっぽっちも残っていない。

改めてこの休日に復習でもしようか、と考えてみるけれどどうもやる気が起こらない。 ダメだ、やりたくない。

とにかく、今は帰って寝なおすことだけ。 それだけで頭がいっぱいだった。

 

 

 

携帯を開く。 閉じる。

早く家に帰りたい。 疲れた。

うとうとしながら車窓の景色を眺めていると、ふと、視界に入ってきた丸井不動産という広告。

 

 

 

ああ、そういえば丸井ブン太は今学校だろうか。

確か土曜日も学校があるって言ってた気がする。 ちゃんと勉強してるのかな。

いや、丸井ブン太の事だからまた大きなイビキでもかいて寝ているんだろう。

それを彼に言ったらきっとまた寝息だって言い張るんだろうが、寝息がうるさければそれはイビキだ。 イビキと言うんだ。

そんなことをぼんやりと考えていたら、昨日結局メールを返していなかったことに気がついた。

 

 

 

(昨日やっぱマズかったな…。)

 

 

 

しまったことをした。

昨日の私の行動は改めて思い返すと、本当に迷惑極まりない行為だったと思う。

私が丸井ブン太の立場だったら思いっきりキレてる。 ウザイって絶対思う。

だって寝起きにあのハイテンションで意味不明な発言でしょ? ウザイよ絶対。

昨日電話越しに怒らなかった丸井ブン太は心が寛大だったと思う。 本当に寛大だった。

 

 

 

「こーゆー時ってどう送ればいいんだろうねー。」

 

 

 

携帯を開いて昨日のメールを開く。

ちょっとだけワザとらしく溜め息を吐いてメール作成のボタンを押した。

 

 

 

(昨日はゴメンね…っと。)

 

 

 

そこまでの文字を打って、ふと、思う。

私と丸井ブン太の関係ってどういう関係なんだろうって。

 

 

 

(やっぱ、友達……かな。)

 

 

 

友達以上、恋人未満。 よく聞く言葉で、曖昧な言葉。

きっとこの言葉がとてもしっくりくるんだろうけど、立場的にはしっくりこない。

はっきりしない、中途半端な関係。

 

 

 

キスされた。 でも、好きだとは言われていない。

こうやって小まめに連絡も取ってるけど、はっきり言って丸井ブン太がああやって電話やメールをくれるか、

もしくは「メールしろ」って言わなきゃとっくに連絡は途絶えていると思う。 だって私はそういう女だ。

じゃあ何で、ああやって連絡を寄越してくるのか。 または連絡しろって言うのか。

わからない。 だって、訊いたことないから。

だから丸井ブン太が私のことを好きなのかも、はっきりとはわからない。

丸井ブン太にどこまで踏み込んでいいのかも、わからない。

 

 

 

(わからないことだらけで、ムシャクシャする…。)

 

 

 

もどかしい。 考えると胸の辺りがモヤモヤして気持ち悪い。

自分でもよくわからないだけに、イライラする。

一体、私と丸井ブン太のこの曖昧な関係はいつまで続くのか。

でもその答えを知る勇気が、私にはない。

いや、知る術を知らないと言った方がいいのかもしれない。

 

 

 

だって、私は丸井ブン太を好きだというわけではないから。

もちろん嫌いではない。

でも、好きなのかって訊かれたらきっと、答えられない。

私は彼のことを知らなさ過ぎるし、彼もまた、私のことを知らなさ過ぎる。

 

 

 

「何なんだろうなー………。」

 

 

 

嫌な予感がする。 すごく。

このモヤモヤ感が消える事はきっと、まだ当分ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしかしたらこれ以上、踏み込んではいけなかったのかもしれないね。

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2009.03.14 執筆

(近付いちゃいけないって、頭の中の警報がずっと鳴っていたのに。)