さよならソングは涙色 24

 

 

 

 

今もまだ好きだよ 好きなんだ 君が、好き

 

君が隣にいない事が こんなにも切ないなら

二人出逢わなければ 何度も思っては俯いて

いつだって目を閉じ浮かぶのは 君の笑顔と優しい手のひら

“前を向かなきゃ” わかっているけど

やっぱり君といたあの日々は消したくない 忘れられなくて

矛盾した想いに足をとられ 今もまだコノ場所から動けない

 

誰も居ない隣 今ではもう当たり前の毎日で

君の面影を思い出すたび 高鳴る鼓動

優しい口付け 初めて重なったあの日

目が合った瞬間 照れたようにお互い笑ったね

そんな儚い想い出 背負っているのは僕だけなのかな

君はもう新しい道を歩んで 僕じゃない誰かの隣で笑っているの?

 

嫌だよ いやだ

君のために流す涙 枯れ果てその意味も忘れた

名前も何も知らなかったあの頃

何も知らずに笑えたあの頃

戻れたのなら どれほど幸せなんだろう

 

叶わない願い 何度願ったって君はもうここに居ない

たとえ君が僕のモノでなくったって 僕はまだ…

 

 

 

「君を好き、でもいいですか?」

 

 

 

きっと君はふざけた様に笑って言う。

「バーカ」ってね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何だか、落ち着かない。 そんな毎日だった。

 

 

 

「明日でテストも終わりだねー。 いやあ、よくやったわ私。」

「今日帰ったら絶対勉強しないね。 もう終わった気分だし。」

「いやいやまだ明日あるから。」

「私一科目だけだもん。」

「…あたしフルだわ…。」

 

 

 

杏璃が落胆したように呟いた。 すごいよね、さすがだね。

私はあと一教科で試験は終了。 そう思うと今からもう気が抜けてきた。

 

 

 

「あ、杏璃明日の夜とか…予定ある?」

「ないけど?」

「ずっと家にいる?」

「いるよ。」

「じゃあさ、家泊めてくれない?」

「別にいいけど…何で? から言い出すなんて珍しいね。」

 

 

 

そう言って杏璃は市販のカフェラテを啜る。 私はその種類のバニラが好きだ。

以前そう言うと、杏璃は口の中が甘ったるくなるから嫌と言ってブラックをずっと好んで飲んでいる。

杏璃が軽く首を傾げてからちょっとだけ間を置いて、私は笑って言った。

 

 

 

「実はさ、丸井君に家来ないかって言われたんだ。」

「…は?」

「いや、だからね。 何かその日家に誰もいないらしくて…ご飯作ってって。」

、作れるの?」

「作れないよ。 作れないって言ったのに来いって一方的に電話切られたの。

 試験終わってからだと思うからきっと遅くなると思うんだよね。 たぶん家に帰れなくなっちゃうから…泊めてほしいなって。」

 

 

 

今度は私がちょっと可愛らしく首を傾げてお願いすると、驚いたように杏璃が目を何回か瞬いて、言う。

 

 

 

「本当ビックリなんだけど、アンタらいつの間にそんな関係になってたの…?」

「…ほんとにね。」

「ていうかさ、」

 

 

 

呆れたように溜め息を吐いて杏璃はテーブルに肘を付いた。

 

 

 

「私の家に、帰れんの?」

 

 

 

嫌な笑み。 口元が嫌に釣り上がってる。

何か含んだ言い方に、私はただただハハ…と乾いた笑みを漏らす。

杏璃の言う、帰れるの?という問いは、絶対に訊かれると私の中では予想の範囲内だったから。

 

 

 

「…さあ、どうなんでしょうね。」

「ま、が帰ってこなくても帰ってきてもいいようにその日、私はずっと家にいるよ。」

「ありがと。 なるべく帰ってくるようにします。」

「ふふふ、私的には面白いからどっちでもいいんだけどね。」

「私が嫌だわ。」

 

 

 

不安。 正直言って私の頭の中はこれでいっぱい。

別にこの歳になったら怖いとか何かそういう感情はほとんどない。

だけど、一線を越えてしまえば何かが変わってしまいそうで、そう考えると胸の辺りがもやもやする。

きっとそれは、脆いから。 彼と私の関係があまりにも脆いもので出来ているから。 壊れるのも一瞬のような気がするんだ。

だからそれが不安へと繋がって、いっこうに私を落ち着かせてはくれない。

 

 

 

「ねえ杏璃…」

「んー?」

 

 

 

ズズッ…飲んでいたカフェラテが音を立てる。

ちょっとだけ汗を掻いたその表面の水を指で掬って、私は訊いた。

 

 

 

「丸井君って、何考えてんのかな…?」

「…さあ、アイツちょっとよくわかんないとこあるし…ある意味ちょっと不思議君だよね。」

「うん、超マイペースだしね。」

「そのうえガキっぽいとこあるしね。」

「…確かに。」

 

 

 

考えれば考えるほど疑問は深まる。 これ以上考えたって埒は明かないだろう。

わかっているけど暇さえあればここ最近はずっとこんなことばかりを考えている。

完全に彼のペースに嵌ってしまっている証拠だろう。 それがなんだか情けなくて、悔しくもあった。

 

どうしたものか、そう考えながら空になったカフェオレをゴミ箱に捨てに行こうと立ち上がったところに杏璃の声がかかる。

 

 

 

「でも、やっぱ好きなんじゃない?」

「え? 何が?」

のこと。 好きなんじゃないかなやっぱ。」

 

 

 

息を呑んだ。

杏璃の言葉に肯定なんてできない。 だけど、否定だってできやしない。

 

ただ私は笑って、そう、小さく笑って

 

 

 

「さあどうなんだろうね。」

 

 

 

と、曖昧な言葉しか吐けなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だって、私は君に何の言葉も貰ってなどいないから。

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2009.07.25 執筆  

(私達には確かなモノなど何一つなかったよね。)