さよならソングは涙色 03

 

 

 

 

今もまだ好きだよ 好きなんだ 君が、好き

 

君が隣にいない事が こんなにも切ないなら

二人出逢わなければ 何度も思っては俯いて

いつだって目を閉じ浮かぶのは 君の笑顔と優しい手のひら

“前を向かなきゃ” わかっているけど

やっぱり君といたあの日々は消したくない 忘れられなくて

矛盾した想いに足をとられ 今もまだコノ場所から動けない

 

誰も居ない隣 今ではもう当たり前の毎日で

君の面影を思い出すたび 高鳴る鼓動

優しい口付け 初めて重なったあの日

目が合った瞬間 照れたようにお互い笑ったね

そんな儚い想い出 背負っているのは僕だけなのかな

君はもう新しい道を歩んで 僕じゃない誰かの隣で笑っているの?

 

嫌だよ いやだ

君のために流す涙 枯れ果てその意味も忘れた

名前も何も知らなかったあの頃

何も知らずに笑えたあの頃

戻れたのなら どれほど幸せなんだろう

 

叶わない願い 何度願ったって君はもうここに居ない

たとえ君が僕のモノでなくったって 僕はまだ…

 

 

 

「君が好き、なんだってば。」

 

 

 

何度聴いたかわかんないフレーズを、あの日と同じ青い空へと向けて歌った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、ここ空いてる。 すーわろっと。」

 

 

 

今日二講義目の先生は気まぐれな人。

三十分も早く講義を切り上げてくれた。

でも、有難迷惑。

三十分早く食堂に来たって友達の杏璃はまだ来ない。

 

 

 

「…………。」

「よっ、一人?」

「君も一人?」

「俺以外の奴は他の講義取ってるからまだ終わってねぇの。 あ、てことは杏璃もまだだろぃ。」

 

 

 

食堂内はちらほら人がいる。

席もいっぱい空いている。

なのにナゼこの目の前の丸井ブン太は私の前の席をセレクトしたのか。

これは有難くもなんともないただの迷惑だ。

 

 

 

「お互い暇だし喋ろーぜぃ。」

「別に良いけど、何話す?」

「や、何かそう言われると話辛いっていうか……じゃあ今彼氏とかいんの?」

「(来た、王道話。)……いないよ。」

 

 

 

私の返答に丸井ブン太は目をぱちくりさせる。

いや、何で驚く? いそうだった?

それはそれでまあ、悪い気はしなくもないけど。

 

 

 

「何だい?」

「え、マジで? だってちょっと前杏璃と別れる時今日これからデートだっつってたじゃん。」

「?、……あ。 そんなこともあったね。 ていうか聞いてないでよ。」

「聞こえたんだって。 何、終わった話?」

「うん、とっくに終わってる話。」

 

 

 

今の他大学の彼のひとつ前。

高校の時、いい感じの人がいた。

きっとその人のことだ。

何度かデートして、何も感じなくなって面倒になってきたから

次からのデート全て断ってたら連絡は自然と途絶えた。

 

 

 

「結構楽しそうにしてたから、付き合ってんのかと思ってた。」

「うーん、好きだったけど……気が変わった。」

「はあ? 冷めやすいタイプ?」

「うん、かなり冷めやすい。 自分でも呆れるくらいにね。」

「へえーそうなん。 俺も俺も。 俺も冷めやすい。」

「…そんなにこやかに言うことでもないけど。 私いい加減この冷めやすさに自分で飽き飽きしてるところだよ。」

 

 

 

いつからこんな女になってしまったんだ。

思い返してみても全然わかんない。

気が付けば、こんな女になってしまっていた。

幸せそうなカップルや友達を見てると、私も幸せな恋愛がしたいなってつくづく思うのに。

性格が邪魔してどうにもなれそうにない。 ああ、自己嫌悪。

 

 

 

「ふーん、お前彼氏つくる気ねぇの?」

「あるよ。 ま、希望は同じ大学内だけど……(距離が近すぎるし、無理だろうね。)」

「キャンパス内でイチャつきたい年頃か。」

「キャンパスライフは楽しく過ごさなきゃ。 て、君もその口でしょ。」

「ご名答。 俺遠距離とか無理なタイプ。」

「私は平気なタイプ。」

「あー、ぽいわ。」

 

 

 

くくっと笑った丸井ブン太がちょっとだけカッコよく見えた。

遠距離が平気って言うか…

わざと距離を保ちたがるから、あえて遠距離を希望しているのかもしれない。

距離が遠ければ遠いほど、『私』に踏み込まれなくて済むから。 安心する。

 

 

 

「でも遠距離、続かねぇだろぃ。」

「うん、続かない。 気が付けば自然消滅。」

「やっぱり? の場合はそうだろうなー。」

 

 

 

また、笑った。

しかも何私を知った風な口を利くんだ。

出会ってまだ間もないっていうか、そんな数えるほどしか関わってないでしょ君。

 

 

 

「そういや、変わってるよな、服のセンス。」

「?、そうかな。 そんなつもりはないけど。」

「変わってるっていうか、何か他の女子と雰囲気違う。 何でかな。」

「……変?」

「いや、似合ってる。 可愛い。」

 

 

 

……何を突然言い出すかと思いきや。

あっさりそういう言葉が口に出ちゃうって…そう、何だか軽いね。

 

 

 

「ありがと…。 君の服の趣味も不思議だよ。」

「似合ってんだろぃ?」

「恐ろしいほどね。 でもやっぱ不思議だよ。」

「ちょっと個性って奴を入れなきゃ他と被るだろぃ。 嫌なんだよ。」

「それはわかる気もする。」

 

 

 

最近の服はどれも可愛いし、ショッピングは大好き。

でも、他人と似たような服を着るのは嫌だ。

だから丸井ブン太と一緒で、みんなと同じような着方はしない。

自分なりにアレンジして自分に似合うよう重ね着をする。

あと、ジャンル統一しない。 いろんな種類の服を着て、その日の私を楽しむ。

これが私のファッションのモットーだ。

 

 

 

「私男の子のパーカー好き。」

「お、俺今パーカー。」

「別に君が好きって言ってるわけじゃないよ。」

「わかってらぁ。」

 

 

 

丸井ブン太のファッションは嫌いじゃない。

いいセンスしてると思うよ。 という意味で言ったんだけど。

 

 

 

「ていうか、お前俺の名前知ってる? さっきから君しか言わねぇけど。」

「知ってるよ?」

「じゃあ言ってみ?」

 

 

 

挑戦的に向けられた大きな瞳。

私は迷うことなく彼の名前を口にする。

 

 

 

「丸井ブン太、でしょ。」

 

 

 

私の返答に、彼が満足げに笑った。

それを見て、また。

また私の胸はちょっとだけトキめいた。

 

 

 

「よくできました。」

 

 

 

女の私より大きくて。 温かくて。

そんな手のひらが私の頭に覆いかぶさる。

掻き乱された髪を手ぐしで元に戻しながら、ちょっとだけ私も笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホントは嫌な事だって、君だったから許せたんだよ。

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2009.02.10 執筆  サンキュウ・クラップ!

(髪触られるの嫌だったんだ、本当はね。)