さよならソングは涙色 04

 

 

 

 

今もまだ好きだよ 好きなんだ 君が、好き

 

君が隣にいない事が こんなにも切ないなら

二人出逢わなければ 何度も思っては俯いて

いつだって目を閉じ浮かぶのは 君の笑顔と優しい手のひら

“前を向かなきゃ” わかっているけど

やっぱり君といたあの日々は消したくない 忘れられなくて

矛盾した想いに足をとられ 今もまだコノ場所から動けない

 

誰も居ない隣 今ではもう当たり前の毎日で

君の面影を思い出すたび 高鳴る鼓動

優しい口付け 初めて重なったあの日

目が合った瞬間 照れたようにお互い笑ったね

そんな儚い想い出 背負っているのは僕だけなのかな

君はもう新しい道を歩んで 僕じゃない誰かの隣で笑っているの?

 

嫌だよ いやだ

君のために流す涙 枯れ果てその意味も忘れた

名前も何も知らなかったあの頃

何も知らずに笑えたあの頃

戻れたのなら どれほど幸せなんだろう

 

叶わない願い 何度願ったって君はもうここに居ない

たとえ君が僕のモノでなくったって 僕はまだ…

 

 

 

「君が好き、だったんだ。」

 

 

 

声が枯れるまで歌い続けたこの歌を、今日もどこかで誰かが歌う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー前髪切ったの?」

 

 

 

今日何回目かわからないこのリアクション。

会う人会う人、私のことを知ってる人にはこの言葉を言われ続けていた。

 

 

 

「長かったのにね。 いいじゃん似合ってる。」

「ありがとう。 斜め分けに飽きたんだ。」

「わかる、同じ髪型って飽きるよね。 私も切ろうかなー。」

 

 

 

鼻下くらいまであった前髪は綺麗さっぱり目の上ラインに揃えられている。

自分で切ったが、我ながらテクってると思う。

結構自分で気に入っていた。

 

 

 

「あ、」

 

 

 

珍しい事もあるもんだ。

エレベーターホールで棒付き飴(俗に言うチャップスという奴だ)を咥えている赤い髪の奴と偶然出くわした。

ここ数日会ってなかった丸井ブン太だ。

 

 

 

「前髪切ってる。」

「思い切ったでしょ。」

「おーさっぱりだな。」

「似合う?」

「似合う似合う。 可愛い。」

 

 

 

またこの男は。

ちょっとだけ顔を引き攣らせながらお礼を言う。

 

 

 

「それにしても、丸井君のその鞄なんスか。」

「これ? カッコイイだろぃ。」

「……やめといたら?」

「えー何でだよ。 気に入ってんのに。」

 

 

 

ちょっと拗ねた表情を貼り付ける。

そんな彼の背には黄緑色のリュックが背負われていた。

黄緑って……いや、いいけど。

彼の髪が赤でなければ、だけど。

 

 

 

「ま、別にいいんだけどね。」

「ちょっと待て。 そう言われると俺もこれダメに思えてくるから。 ちゃんと褒めてけ。」

「うん似合う似合う。 可愛い。」

「それ、俺がお前に言った言葉まんまだろぃ。」

 

 

 

ちょっと傷ついた感がある表情をする丸井ブン太を見て、ぷっと吹いて笑った。

 

 

 

「…何で笑うんだよ。」

「笑ってないよ。」

「笑ったお詫びに昼飯奢れ。」

「何でそうなる。」

 

 

 

コツンと小突かれた頭を押さえる。

そこが少しだけ熱くなったのなんて、気が付かない。

 

 

 

「あ、次の講義が始まっちゃう。」

「やべっ俺もだ。」

「くそー予想外の所で無駄足踏んじゃった。」

「無駄足言うな。 じゃーな、。」

「うんバイバイ。」

 

 

 

お互い反対方向へと向かって足を踏み出す。

だけど一歩進んだ所で名前を呼ばれて振り返る。

彼も立ち止まり、こっちを振り返って私を見ていた。

 

 

 

「俺はこっちののが好きだな。」

 

 

 

人差し指を横にして眉辺りで左右させる。

つまり、前髪のパッツンってことか。

理解するのにちょっとだけ間を頂いて私は彼に向かってこう言った。

 

 

 

「そりゃどーも。」

 

 

 

チャイムと共に駆け出したその足が、妙に軽かったのなんて、気のせいだと思ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胸が温かくなる、それを恋と呼ぶ事なんて簡単な事。

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2009.02.10 執筆  サンキュウ・クラップ!

(どうして気付けなかったのかな。)