さよならソングは涙色 05
今もまだ好きだよ 好きなんだ 君が、好き
君が隣にいない事が こんなにも切ないなら
二人出逢わなければ 何度も思っては俯いて
いつだって目を閉じ浮かぶのは 君の笑顔と優しい手のひら
“前を向かなきゃ” わかっているけど
やっぱり君といたあの日々は消したくない 忘れられなくて
矛盾した想いに足をとられ 今もまだコノ場所から動けない
誰も居ない隣 今ではもう当たり前の毎日で
君の面影を思い出すたび 高鳴る鼓動
優しい口付け 初めて重なったあの日
目が合った瞬間 照れたようにお互い笑ったね
そんな儚い想い出 背負っているのは僕だけなのかな
君はもう新しい道を歩んで 僕じゃない誰かの隣で笑っているの?
嫌だよ いやだ
君のために流す涙 枯れ果てその意味も忘れた
名前も何も知らなかったあの頃
何も知らずに笑えたあの頃
戻れたのなら どれほど幸せなんだろう
叶わない願い 何度願ったって君はもうここに居ない
たとえ君が僕のモノでなくったって 僕はまだ…
「君が好き、なのに。」
小さく消え入りそうな歌声。
きっと今日も誰に届くことなく口から出ては風乗って消えていく。
「杏璃、遅い。」
後ろにお荷物を連れて来た杏璃が「ごめん」と言って向かいの席に腰を下ろす。
「何で丸井君がいるの?」
「今日俺のダチみんなサボり。」
「ナメてるね。」
「だろぃ。」
そう言って丸井ブン太は当たり前のように私の隣に座った。
だから何で…。
「今日もお昼お弁当?」
「イエスお弁当。 杏璃は?」
「ほれ、ブン太買って来て。」
「はあ? こういう時はジャン負けだろぃ。」
「オーケー。 私、日替わり定食。」
「俺、酢豚丼の特盛。」
二人真剣な目つきで拳を固める。
何か、友達なんだなって思った。
良い関係なんだと思うよ、君たち。
「くっそ負けた!」
「いってらっしゃい。 はいお金、くすねないでね。」
「ゴチっす杏璃さん。」
「ちょっと私の財布から出さないでよ! 自分の分は自分で払ってよ!」
「ゴチっす杏璃さん。」
「ちょっ、絶対だからね!」
「ゴチっす杏璃さん。」
「しつこい!!」
丸井ブン太は軽い足取りで食堂の奥へと向かっていった。
その背中をぼんやりと見送っていると、杏璃が私の名前を呼んだ。
「聞いて、今日ね、デートなのっ!」
「あれ、まだ続いてたの?」
「…アンタと違うわよ。 でねでね、映画観るの!」
「えーいいな、何観るの?」
「えっとねぇ…何だっけ?」
「…彼氏と観に行く映画くらい覚えておきましょうね。」
丸井ブン太が昼食を運んでくる間、杏璃と恋バナに話を咲かす。
初めは杏璃の彼氏の話だったのが、いつの間にか好きな男のファッションの話に変わっていた。
そして丸井ブン太が帰ってくる頃には、ファッションだった話題もいつの間にかまた好きな男のタイプに変わっていた。
「お待たせ、何の話?」
「好きな男の話。」
「別に好きな男の話ってわけじゃ…男には欠かせない箇所を挙げてただけでしょ。」
「で、何なん?」
「まずはーファッションセンス良くないとダメっしょ。」
「ふんふんそんで?」
「あとはーそうだなー、」
トレイを一個杏璃へと手渡す。
再び私の隣に腰を下ろしながら丸井ブン太は杏璃が挙げていく男の欠かせない箇所を聞いていた。
「スポーツできないとダメ。」
「俺やってる。」
「(…別に君の話じゃないけど。) 何やってんの?」
「んーテニス。 中学からずっとテニスやってんの。 これでも結構強いんだぜぃ。」
へー意外、強いんだ。 自分で言っちゃったけど。
そう思いながら「そうなんだ。」とだけ返しておいた。
「あとこれはの個人的意見だけど、色黒?」
ね、と同意を求められて頷く。
色黒っていうか、色白があまり好きじゃないだけ。 何かひ弱そうだし。
やっぱスポーツやってて日に焼けた素肌、がっちりした体系がいいでしょ。
細いのなんて、やだわ私。
「…別に色白も悪くねーぞ。」
「そういやブン太、色白いよね。 スポーツやってるくせに。」
「まーな、あんま焼けない体質なの。」
一瞬だけ丸井ブン太の眉が跳ね上がった。
おお、もしや気にしてらっしゃったのか。
それならすまない事を言ったのかもしれない。
ごめんね、口に出しては謝らないけど。
「睫毛も長いよねー。」
「どれ、ちょっと目閉じてよ。」
「あ、が興味持った。」
「んー、まあ一般よりは長めってところかな。」
そう言って丸井ブン太が私の方を向いて目を閉じる。
見えにくかったから近付いてじっと見つめると、確かに長くて綺麗な睫毛だった。
羨ましいな、何だか丸井ブン太のモノなのが勿体無い。
「へー長いね。」
「だろぃ?」
ぱっと目を開けた丸井ブン太と目が合う。
距離が近かっただけに、私の心臓は飛び上がった。
慌てて身体を離すと、椅子の足に足が当たってガタガタと大きな音が鳴ってさらに慌てた。
些細な事が気になりだして、何故か止まらなかった。
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2009.02.10 執筆 サンキュウ・クラップ!
(これ、狙ってやってたわけ?)