さよならソングは涙色 06

 

 

 

 

今もまだ好きだよ 好きなんだ 君が、好き

 

君が隣にいない事が こんなにも切ないなら

二人出逢わなければ 何度も思っては俯いて

いつだって目を閉じ浮かぶのは 君の笑顔と優しい手のひら

“前を向かなきゃ” わかっているけど

やっぱり君といたあの日々は消したくない 忘れられなくて

矛盾した想いに足をとられ 今もまだコノ場所から動けない

 

誰も居ない隣 今ではもう当たり前の毎日で

君の面影を思い出すたび 高鳴る鼓動

優しい口付け 初めて重なったあの日

目が合った瞬間 照れたようにお互い笑ったね

そんな儚い想い出 背負っているのは僕だけなのかな

君はもう新しい道を歩んで 僕じゃない誰かの隣で笑っているの?

 

嫌だよ いやだ

君のために流す涙 枯れ果てその意味も忘れた

名前も何も知らなかったあの頃

何も知らずに笑えたあの頃

戻れたのなら どれほど幸せなんだろう

 

叶わない願い 何度願ったって君はもうここに居ない

たとえ君が僕のモノでなくったって 僕はまだ…

 

 

 

「君が好き、だから。」

 

 

 

 

何も見なくても自然と口に出てくるこの歌。

いつになったら涙無しに歌う事ができるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや。」

 

 

 

帰りの電車内、携帯が鳴る。

どうやらマナーにし忘れていたらしい。

慌ててポケットから携帯を取り出して電源ボタンを押した。

周りの視線が痛い。 ごめんなさい。

 

 

 

「メールだ。」

 

 

 

新着メール一件。

それはさっきバイバイしたばっかりの杏璃からだった。

 

 

 

(何か言い忘れたのかな…。)

 

 

 

何かあったっけ。

考えながらメールを開くと内容は予想もしないものだった。

 

 

 

「ブン太にアドレス教えるから。」

 

 

 

…何で?

 

 

 

「別にいいけど、何で?」

 

 

 

私の頭の中は“?”でいっぱい。

それにしても杏璃のメールはいつになく素っ気無い。

もっと記号とか使ってほしい。 何か寂しいじゃん。

 

 

 

(あ、返事返って来た。)

 

 

 

メールの返事が素っ気無い分スピードは幾分か早い。

嬉しいのやら、切ないのやら。

 

 

 

「さあ。 まあ用はそんだけ。 ………あっそ。」

 

 

 

思わず口で返事を返して携帯を閉じた。

返事を返さなくても杏璃の事だからさほど気にはしないだろう。

 

その後の電車の時間、丸井ブン太からメールが来ることはなかった。

彼からメールが送られてきたのは、夜の十一時半。

私が丁度お風呂から上がった時間だった。

 

 

 

「おっす。 ちゃんと誰かわかるか?」

 

 

 

いや、アドレスに“bunta”って名前入ってるよ。

バカだなって思いながら「わかるよ、丸井ブン太でしょ。」って書いて送ってやった。

ふーっと息を吐いて携帯を机の上に置くとすぐにまた携帯が震える。

 

 

 

「偉い偉い。 ちゃんと登録しとけ。」

 

 

 

あ、忘れてた。

返事を返す前にアドレス帳に丸井ブン太って名前で登録する。

アドレス帳に新しく一件加わった。

なんだか、新鮮だった。

 

 

 

「登録したよ。」

 

 

 

とにかく何を話せば良いのかわかんないし、それだけを送る。

人のこと言えないくらい素っ気無い内容だった。

 

 

 

「今何してんの?」

 

 

 

まああっちのメールも素っ気無いしいっか。

とりあえず「何もしてない。 丸井君は?」と送って濡れたままだった髪をタオルで拭った。

 

 

 

「俺今から寝るとこ。 でも寝れない。」

 

 

 

何じゃそりゃ。

思わずメール画面に声を漏らす。

そしてすぐに「子守唄でも歌ってあげようか(笑)」ってメールを送信。

すると突然携帯が震え、画面に知らない電話番号が表示された。

 

誰からの電話かわからないので少しだけ出るのを躊躇う。

少しだけ様子を見て、切れそうにもなかったので恐る恐る通話ボタンを押した。

 

 

 

『さっさと出てくれねー?』

「は?」

『俺、丸井ブン太。』

「…知らない番号だったから居留守使うとこだった。」

『バッカやめろぃ! ちゃんと登録しとけよ。』

 

 

 

どうやら杏璃は私のアドレス帳を赤外線で送信したらしい。

何で番号知ってんだって。 アドレスだけだと思ってたし。

 

 

 

「で、何ですか?」

『歌ってくれんだろぃ。』

「ん?」

『だーかーらー、子守唄。』

「君、バカ?」

『バカじゃねっつの。 だってさー何か知んねぇけどなっかなか寝れねぇの。』

「羊でも数えれば?」

『どっかのバカ思い出すからヤダ。』

「は? 誰?」

『んー他校生。 ジローっての。』

 

 

 

誰だ、知らん。

わかんなかったからとりあえず「へー」と興味なさげに返事を返す。

 

 

 

『何してんだ?』

「今? お肌のお手入れ。」

『女の子だな。』

「女の子だもん。 女の子は大変なんだよ。」

『だろうなー。 男にはない努力だな。』

「そうだよ。 努力しなきゃすぐお肌荒れるんだもん。」

『そうなん、頑張れ。 ま、は可愛いしな。』

「……は、可愛い?」

『何照れてんの?』

「て、照れてない!」

『ぷっ、照れてる照れてる! かっわえー!』

「うっさい! ちょっと黙って!」

 

 

 

けらけら電話越しに笑い声が響く。

耳に直接響いてちょっとだけくすぐったかった。

そのうえお風呂上りなだけあって、頬が熱い。

鏡越しに映る自分の顔が赤くなってて、さらに恥ずかしくなった。

 

 

 

『何? 可愛いとか言われると照れんの?』

「切るよ、電話。」

『ちょっタンマ! ぷっ、もう言わねぇって。』

「今また笑った。」

『笑ってねぇよ。 まあ落ち着け。』

「……どっちが。」

 

 

 

丸井ブン太の声が笑ってる。

耳元で、響く。

 

 

 

「で、寝れそう?」

『んーどうだろ。 が歌ってくれたら。』

「はあ? 何を?」

『だから子守唄。』

「自分で歌えば?」

『バッカ自分で歌ったってしょうがねぇだろぃ! が歌ってくれるから寝れるんじゃん!』

「…意味わかんないっつの。」

 

 

 

はあと呆れ混じりの、熱い溜め息を吐く。

熱いのはきっと、お風呂上りだから。

逆上せている、だけ。

 

 

 

「ま、頑張って寝てください。 それじゃおやすみ。」

 

 

 

有無を言わせないうちに電話を切る。

これ以上電話を続けていたら、気が可笑しくなってしまいそうで。

 

だけどすぐにまた携帯が震えて、身体がビクリと飛び跳ねる。

恐る恐る携帯のディスプレイを覗き見ると、そこには新着メール一件の文字が。

 

 

 

「おやすみ。」

 

 

 

たったそれだけの、メール。

されど、それだけのための、メール。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

波打つ心臓の音が、少しだけ心地よかった真夜中。

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2009.02.11 執筆  サンキュウ・クラップ!

(一体、何を考えての行動だったのですか?)