さよならソングは涙色 08

 

 

 

 

今もまだ好きだよ 好きなんだ 君が、好き

 

君が隣にいない事が こんなにも切ないなら

二人出逢わなければ 何度も思っては俯いて

いつだって目を閉じ浮かぶのは 君の笑顔と優しい手のひら

“前を向かなきゃ” わかっているけど

やっぱり君といたあの日々は消したくない 忘れられなくて

矛盾した想いに足をとられ 今もまだコノ場所から動けない

 

誰も居ない隣 今ではもう当たり前の毎日で

君の面影を思い出すたび 高鳴る鼓動

優しい口付け 初めて重なったあの日

目が合った瞬間 照れたようにお互い笑ったね

そんな儚い想い出 背負っているのは僕だけなのかな

君はもう新しい道を歩んで 僕じゃない誰かの隣で笑っているの?

 

嫌だよ いやだ

君のために流す涙 枯れ果てその意味も忘れた

名前も何も知らなかったあの頃

何も知らずに笑えたあの頃

戻れたのなら どれほど幸せなんだろう

 

叶わない願い 何度願ったって君はもうここに居ない

たとえ君が僕のモノでなくったって 僕はまだ…

 

 

 

「君が好き、だ。」

 

 

 

懐かしいあのメロディーを刻めば、いつしか雨は止んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよ。」

 

 

 

いつかのように、エレベーターホールにて偶然遭遇。

眠い目を擦って挨拶を交わす。

目の前の彼も私に続いて同じ言葉を発した。

 

 

 

「なあ、」

「何?」

「何でメール返してくんねーの?」

「……は、メール?」

 

 

 

メールなんてしてたっけ?

ちょっとだけ間を置いて考えてみた。

いや、してないな。

君からメールが来たのは二日前のあの日、最初の一日だけだったけど。

 

 

 

「俺のメールで終わったんだから次はお前が送ってくる番だろぃ。」

 

 

 

何、何のルールだ。

知らないよそんなの。

君のルールなんだったら言ってくれなきゃ伝わらないよ普通。

 

 

 

「そーだったの? それはごめんなさいね。 じゃあ今日覚えてたら送るよ。」

「絶対忘れんなよ。」

「自信はないね。」

「絶対!」

「…頑張るけど。」

 

 

 

君のルール知らなかったから仕方ないけど、この二日間、私のメールを待ってくれてたのなら悪い事をした。

悪気はないけど、今日気が向いたらメールすることにしよう。

 

 

 

「で、この間寝れたの?」

「うんバッチシ! 爆睡!」

「へーそりゃ良かったね。 私あの日寝たの三時だし。」

「え、何で?」

「だって……あれ、何でだろ。」

「はあ? 何ソレ意味わっかんねー!」

 

 

 

ぷぷっと笑う丸井ブン太と共にエレベーターの中へと乗り込む。

授業開始ギリギリの朝一なだけあって、中は満員だった。

押しつぶされそうになりながらも、何とか端をキープ。

気が付けば丸井ブン太もちゃっかり私の隣の端をキープしていた。

 

 

 

「で、何で?」

「さあね。」

 

 

 

電話の会話を思い出して、寝れませんでした。

なんてバカみたいな話、本人前にして言えるはずがない。

 

 

 

「…あーそれにしてもエレベーター人多すぎてイライラする。 狭い!」

 

 

 

人込みなんて大嫌いだ。

私を潰す気か。

 

 

 

「んじゃもっとこっち寄ればいいじゃん。」

「ん?」

 

 

 

急にぐいっと腰を引かれ、丸井ブン太の方へとよろける。

ビックリして思わず丸井ブン太を見上げた。

丸井ブン太は私の反応を見ているかのように、意地の悪い笑みで私を見下ろしていた。

でもそんな風に見えるのは、私の気のせいなのかもしれない。

 

 

 

「…どうも。 別にあんまり変わらないけどね。」

 

 

 

そう言って彼から目を逸らす。

丸井ブン太は特に気にする素振りも見せず「そーかー?」と言って私の腰から手を離した。

 

同時に、エレベーターも最上階に着き、中の生徒が一気に降りる。

 

 

 

「何? も八階?」

「うん、丸井君も?」

「おう、さっき杏璃に電話したら八の五だって言ってた。」

「へーそうなんだ。」

 

 

 

私は八の一。

訊かれてないので答えはしないが、心の中でそっと呟いた。

 

 

 

「ブン太、!」

「あ、杏璃。」

「噂をすれば、だな。」

 

 

 

ちょうど八の五の教室から出てきたところだった杏璃が私と丸井ブン太に気づいてやってくる。

トイレにでも行くつもりだったのかな。

でもそれほど急いでないし、手に化粧ポーチ持ってるし、トイレに鏡でも見に行くつもりだったんだろう。

 

 

 

、昨日どうだったの?」

「え、何が?」

「だからデートだよデート、行ったんでしょ?」

「あー…うん。」

 

 

 

その話聞きたかったの、と言って杏璃がうきうきと昨日の経緯を尋ねてきた。

もうすぐチャイム鳴るし、何だか丸井君の視線が痛いし、

とりあえず簡単に説明だけしておくことにした。 続きはまたお昼の時にでも話せばいい。

 

 

 

「とりあえずもう会えないって言っておいたよ。」

 

 

 

その言葉に、杏璃は「偉い!」と言って頭を撫でてくれた。

朝時間ないのに一生懸命セットした髪が乱れて、ちょっと気分が悪かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただね、寂しがり屋だから、一人になるのが嫌だっただけ。

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2009.02.12 執筆  サンキュウ・クラップ!

(だけど思い切って手放せたのは、影に君という存在があったからなんだって。)