さよならソングは涙色 09
今もまだ好きだよ 好きなんだ 君が、好き
君が隣にいない事が こんなにも切ないなら
二人出逢わなければ 何度も思っては俯いて
いつだって目を閉じ浮かぶのは 君の笑顔と優しい手のひら
“前を向かなきゃ” わかっているけど
やっぱり君といたあの日々は消したくない 忘れられなくて
矛盾した想いに足をとられ 今もまだコノ場所から動けない
誰も居ない隣 今ではもう当たり前の毎日で
君の面影を思い出すたび 高鳴る鼓動
優しい口付け 初めて重なったあの日
目が合った瞬間 照れたようにお互い笑ったね
そんな儚い想い出 背負っているのは僕だけなのかな
君はもう新しい道を歩んで 僕じゃない誰かの隣で笑っているの?
嫌だよ いやだ
君のために流す涙 枯れ果てその意味も忘れた
名前も何も知らなかったあの頃
何も知らずに笑えたあの頃
戻れたのなら どれほど幸せなんだろう
叶わない願い 何度願ったって君はもうここに居ない
たとえ君が僕のモノでなくったって 僕はまだ…
「君が好き、なんだから。」
ヘッドフォンから流れる音楽に耳を傾け街を歩く。
君と同じ鞄を持った人と擦れ違って、気が付けば足を止めていた。
「あ、そだメールだ。」
晩御飯を食べながらテレビを見ていたら、
ふと、赤い髪の少年の存在を思い出した。
たぶん、テレビに出てきた人の髪の色が赤かったからだと思う。
ポケットから携帯を取り出して彼のアドレスを引っ張り出してきた。
「何て送ればいいんだ?」
メールを送れと言われて送るメールには何を書いて送ればいいんだろうか。
しばしの間悩んでみたものの、浮かぶ言葉は素っ気無いものばかり。
やっほ、元気? …何かこのテンション、ヤダな。
送ったよ。 …だけだったら今度はあっちが返事に困るよね。
今何してるの? …やっぱこれが無難かな。
「…何か、どうでも良くなってきた。 アホらし。」
相手が返事に困ったって知るもんか。
あっちが送れって言ってきたんだから、私知らない。
とりあえず「やあ、丸井君。」とだけ書いてメールを送った。
「お、この映画観たいなあ。 でも映画ってあんま観に行かないしな。」
テレビの画面に大きく“大ヒット上映中”と表示されているのを見て、
ああもうやってるんだって思いながら味噌汁を啜る。
映画なんて誘われなきゃ行かない。
どうせ気が付けばすぐにまたテレビでロードショーしてるし。
「そういや、この間杏璃行くって言ってたけど、結局何観たんだろ。」
そういやよくよく考えると、私はカップルで映画なんて行ったことがない。
今更な事に気が付いて、さらに携帯のメールに返信がないことにも気が付いた。
何かしてんのかな。 ちょっとだけ携帯画面を覗いてみる。 着てないけど。
「わっビックリしたー。」
その瞬間に鳴った携帯に全身で驚きを表現する。
なんてナイスタイミングなんだ。
ドキドキした心臓を抑えながら新着メールを開いた。
「何?………って、こっちが何って聞きたいんだけど…。」
え、私どうすればいいの?
「なんでもないよ。 ただ約束通りメール送っただけ。」
とりあえず、そう書いて送った。
何だろう、言われたとおりメールを送った事、すごく後悔してきた。
若干しょぼんとしてオカズの牛肉を口へと運んだ。 うん、ジューシー。
「おー返事早いなー。 って電話だし。」
一分も立たない間に再び携帯が鳴った。
返信の早さに感心していると、ディスプレイには着信の文字。
もちろん名前は丸井ブン太で。
「もしもし?」
『おー偉い偉い。 覚えてたんだ。』
「テレビ見てたら思い出した。 偉いでしょ。 もっと褒めて良いよ。」
『バーカ。 調子乗んな。』
「むっ、私褒めたら伸びる子なのに。」
『あーはいはい、偉い偉い。 満足?』
「うん、満足。」
笑ってそう言うと、電話越しの彼もフッと笑った息が聞こえた。
何だか、くすぐったい。
『今何してんの?』
「ご飯食べてる。 丸井君何してんの?」
『俺今帰ってきたとこ。』
「そうなの? おかえり。 遅いね。」
『おう、テニスしてたから。 疲れたー。』
「テニスサークル入ってたの?」
『そ、やっぱ大学でもテニスは続けたいしな。 本格的じゃねぇけどそれなりに本気だぜぃ。』
「そっか。 部活にテニスないもんね。」
『そーそー何でだって感じだよな。』
「じゃあ丸井君が作っちゃえば?」
『お、それいいね。 じゃあはマネージャーな。』
一瞬、息が詰まる。
「はあ? ヤダよ。」
『何でだよいいじゃん。 俺専用のマネージャー。』
「やーだ。 私は今自分の事で精一杯。 丸井君の世話とかしてらんない、面倒。」
『あーそーですか。 ったく、お前どんだけ面倒くさがりなんだよ…。』
電話越しに、呆れた声。
それを聞いてちょっとだけ、捻くれた事しか言えない自分に嫌悪感を抱いた。
「そういや、今日の帰り電車で知らない人に声かけられたんだ。」
無理矢理話題を変える。 とっさに浮かんだ今日の話題。
このまま話が続くと、きっとまたつっけんどんな言い方をしてしまうに違いない。
何故かこれ以上、可愛くない自分を見ていられなかった。
『ナンパ?』
「さあ、ナンパ…って言うのかな? でも同じ大学の人だった。」
『何でわかんの?』
「何かね、ホームで電車待ってる時に一回目が合ってね。 同じ電車に乗って、その人も私と同じ駅で降りたの。」
『ふーん、で?』
「急に大学一緒ですよねって訊かれて、何でわかんのってビックリしちゃった。
たぶん乗った駅が一緒だったからだと思うんだけど。」
視線をテレビに向ける。 お笑い芸人がスベッたくせに開き直っていた。
それに笑う事なく、黙って私の話を聞く丸井ブン太に今日の帰宅途中の経緯を話す。
「ほら、あそこの駅使う学生って私らの大学くらいじゃん。
とりあえず頷いたらさ、実はその人の最寄駅は終点らしくって…私が降りたから駅違うけど一緒に降りましたって。
それでね、何かこれからどっか行かない?って聞かれた。 ほんと気持ち悪かったー。」
『そりゃあーな。 で、どうしたんだよ。』
「うーん、関わりたくなかったから適当に笑って逃げたんだ。
何か、そんな人と同じ大学ってやだなー。 大学内でばったり会ったらどうしよ。」
『案外明日あたりに会うかもな。』
「ちょっとやめてよ、ヤダよっ…!」
焦った私の反応を聞いて、丸井ブン太はハハハと笑って『冗談だよ』って言った。
冗談にしちゃタチが悪いよ。 声かけられた時、本当に気持ち悪かったんだからね。
そう言うと、丸井ブン太は笑うのを止めてちょっとだけ間を取った。
『ま、何かあったらすぐ俺に言えよ。 守ってやるからさ。』
予想外の言葉。
見開く目。
詰まった息。
完璧に動揺した私は、たった一言、“ありがとう”も言えずに、
ただただ乾いた笑いを零す事しかできなかった。
素直にありがとって言えるそんな私だったならよかったのに。
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2009.02.12 執筆 サンキュウ・クラップ!
(嬉しいって気持ちを隠そうとする癖が、いけないんだ。)