Warm Corner 101

 

 

 

 

 

、夢見るお年頃です。

 

 

 

 

 

夢の中でふわふわと舞うように飛び交うちょうちょ。

あたり一面に咲き乱れる色とりどりの花達。

その真ん中に立つ私の王…

 

 

 

 

 

「起きろと言っとるのが聞こえんのか!この馬鹿者ー!!」

 

 

 

 

 

幸せ一杯の夢をものの見事に打ち壊された清々しい朝。

私は幼馴染である男に投げ起こされました。

 

 

 

 

 

「低血圧の乙女に何てことするかこンの老け面がー!!!!!」

 

 

 

 

 

やられっぱなしも性に合わんので直ちに起き上がって飛び蹴りを一発。

しかし奴もそれほど柔な人間でもないので簡単に避けられてしまってそのまま私は部屋の壁に激突。

くそっ、これが朝早くから鍛錬をしている男と今起きたばかりの寝癖女との違いか。

鼻が痛いわ。 顔崩れたらどう責任とってくれんだコノヤロウ。

 

 

 

 

 

「何よ弦一、朝から私の部屋に来るなんて珍しい…あーくそ鼻痛ぇ…」

「鼻血は出とらんから大丈夫だ。 それより、昨日言ったばかりの約束すら覚えとらんのかお前は。」

「約束したっけ? 生憎私の脳みそは無駄なこと、もしくは自分が嫌だと感じたことは綺麗に忘れる機能がついてるんだ。」

「何を言うか。 普段から無駄なことばかり考えとるくせして。 無駄なことを抜けば何も残らんではないか。」

「朝から私の不快指数上げに来たなら帰れ。 清々しい私の朝にアンタの存在はいらん。」

 

 

 

 

 

シッシと手を振れば弦一の眉間の皺が深くなった。

あー怒鳴られるのヤダー。

朝から頭に響くんだってコイツの声は…。

 

 

 

 

 

「昨日お前はマネージャーの件を引き受けただろう! いつまで寝惚けとるつもりだ愚か者!!」

「ぎゃふっ!」

 

 

 

 

 

バシンと音がなるくらい強く頭を叩かれ、閉め切っていたカーテンと窓をガラリと開けられる。

何すんだこの老け面! 鬼! 親父!!

………む、マネージャー!?

 

 

 

 

 

「あのー…弦一郎さん。 そんな約束、したっけ?」

「まさか忘れたわけではあるまい。」

「忘れたよ。 知らないもん。」

 

 

 

 

 

私がきっぱりそう返事を返すと、弦一から痛々しい視線と大いなる溜め息を深々と吐かれた。

とにかく学校へ行く用意をしろと言って弦一は私の部屋から出て行き、一度隣の自分の家へと帰って行った。

 

 

 

 

 

―― 時間は遡り、昨日の夕方になる。

 

 

学校の帰りに買ってきた漫画の新刊を読みながらベッドの上でゴロゴロしていた私の部屋に

部活帰りの弦一が入ってきていきなり私にお願いがあると言って深々と頭を下げた。

私は何事だと言って、驚きのあまりベッドの上で正座したっけ。

 

 

 

 

 

『実は今日マネージャーが家の都合で部活を続けられなくなった。

至急新しいマネージャーがほしいのだがそういない。 お前帰宅部だろう、引き受けてはくれんか。』

『ヤダ。』

『む、何故だ。 お前の暇な時間を有意義なものにするチャンスではないか。』

『テッメそれがお願い事を頼む相手に向ける言葉か!』

 

 

 

 

 

訊けば、ずっとマネージャーをしていた女の子が家の事情とやらで部活を辞めざるをえなくなったらしく、

うちのテニス部は全国も軽々と行っちゃうくらい強くて人気を誇るテニス部だ。

中途半端なファン精神のマネージャーはお断りだし、かと言って仕事ができない、体力のないマネージャーもダメ。

だけどマネージャーを必要とする今、すぐにお手ごろな女の子を見つけ出すのは至難の業。

っつーわけで、弦一の無二の幼馴染である私のところへ頼みに来たってワケだ。

 

 

 

 

 

『だってーアンタらの世話とか何の義理があって私がせにゃならん。 面倒くさいわムカつくわでやってらんないよ。』

『そう言うな。 お前が適任だと蓮二とも話し合って決まったんだ。 頼む、やってくれないか。』

『柳君と話し合ったからって何よ。 別にどうだっていいよそんなこと。 とにかく面倒だからヤダっつの。』

『これだけやってくれと言っても断るか。』

『アンタがどれだけ頼んだって結果が変わるワケないだろう。 出直していらっしゃい。』

『……幸村がお前を勧めたから俺も不安は残るが承諾したと言うのに、でなければ誰がお前などに頼むか!』

『なにー!! 何て言った今!!』

 

 

 

 

 

思わずベッドから飛び降りて弦一の襟元を思いっきり掴み上げた。

弦一は目を見開いて驚いて体を仰け反らした。

 

 

 

 

 

『幸村君が言ったの!? 私にしろって!? 幸村君が!?』

『……何だお前は…』

『どうなのよ!!』

『……そうだ。 幸村がお前がいいんじゃないかと言って勧めてきた。

初めはとんでもないことになるからと言って断ったんだが、そこへ蓮二も入ってきて二人してお前を勧めたんだ。』

『断るな! むしろ勧めろよこの役立たずが!! 幸村君の頼みとあらば断るわけにはいかないでしょう!!』

『ならばやるのだな?』

『あったり前じゃん訊くまでもないでしょ!!』

『……そうか。』

 

 

 

 

 

あー思い出した思い出した。

私確かマネージャーの件、快く引き受けたよ。

幸村君に釣られてあっさりOKしちゃったよそうだそうだそうだった。

だって幸村君は私の王子様なんだもの!

今日だって夢に出てきたくらいだもんね!

断るわけないじゃん馬鹿だなーもー!!

弦一も随分交渉上手になったものだわ本当。

 

 

 

 

 

「で、何をすりゃいいのよ。 正直私か弱いから体力系無理だから。」

「大丈夫だ。 お前には主に体力系で行ってもらう。」

「今私の言ったこと聞こえてたかい。 とうとう耳まで年老いたか。」

「やかましい。 そもそもお前がか弱いと言うこと自体が空耳だった。」

「聞こえてんじゃん!! っつか冗談抜きで私体力ないってマジで!!」

「知っている。 だがお前は力はあるだろう。 体力がなくても力があるから大丈夫だ。」

「ふざけんな! 面倒なことは一切受け付けません! それに走るのも嫌だからね!」

「文句の多い奴だ。 だが安心しろ、引き受けた時点でお前に拒否権はない。」

「きぃぃぃー! むかつくー!!」

 

 

 

 

 

何やかんや言いながら久しぶりに二人で学校へ登校する。

朝が早いから人はそれほどいなくて、鳥の鳴く声が何処からともなく聞こえてくる。

私の日常生活から考えたら、こんな時間にこの道を歩くことなんてまずないので貴重な体験だと思う。

 

 

 

 

 

「ねえ、マネージャーって一人しかいなかったの?」

「いや、あと二人いる。 一人は一年でもう一人は俺達と同じ二年生だ。」

「へーそっか…。」

「仕事はできるがソイツら二人にはそれぞれの各学年を担当してもらっている。

レギュラーの世話をしていた方の二年生が辞めてしまったのでな。 お前はその穴埋めだ。」

「え、ならもう一人の二年にレギュラーの世話やらせりゃいいじゃん。 代わりに私がレギュラーじゃない二年の世話するし。」

「馬鹿者、もうすぐ三年生になる今、サイクルを乱すわけにはいかん。 今まで通りで行く。 お前はレギュラーだ。」

「……石頭め。 じゃあ次入ってくる一年生の世話はその新しいマネージャーに任せるってこと?」

「そうだ。 それぞれ仕事が微妙に違うからな。 簡単なようで簡単ではない。

そうやすやすと担当を変えてしまってはマネージャーとしても大変なんだ。」

「ふーんそっか。 そりゃまたご苦労なことですね。」

 

 

 

 

 

朝練は大体個人の自由でやっているらしく、マネージャーも自由参加ならしい。

今日私が朝早くから起こされてわざわざ連れて来られたのは放課後に備えていろいろ覚えておくべきことを

朝の寝惚けた脳みそに叩き込まなくてはいけないかららしい。

テメ、どんな拷問だコラ。

私は記憶力はずば抜けていい方だけど理解力に乏しい。

テストはほとんど暗記にかけてる女だぞ。

 

 

 

 

 

「これだけ覚えておけば大体の仕事をこなせる。 休み時間など使って覚えておけ。」

「冗談は休み休みにしなさい弦一郎。 何ですかこのファイルの山は!」

「それは蓮二が追々お前に覚えてもらうために纏めたデータだそうだ。

選手個々のデータらしいから手荒に扱うなよ。 失くしたりしたら大変なことになる。」

「今すぐ全部屋上からばら撒いてやろうか。」

 

 

 

 

 

部室の真ん中に積み上がったファイルの山を見て私の顔は思いっきり引き攣る。

色とりどりのファイルが私を嘲笑っているようにも見えた。

くそ、夢では色とりどりの花だったはずなのに…!!

 

 

 

 

 

「ウィーッス。 お、相変わらず真田は早いねえ。 …………ん?」

 

 

 

 

 

バンッと戸が開いたと思ったら赤い髪の丸井ブン太が入ってきて私の顔を見た途端動きを止めた。

弦一が「丸井」と名前を呼んだのとほぼ同時だったと思う。

彼が驚くほどの声を上げたのは。

 

 

 

 

 

「真田が朝から女と密会してるー!!」

 

 

 

 

 

この後すぐ、部室を飛び出して行った丸井君をとっ捕まえた弦一の怒鳴り声が

朝の爽やかなコート一面に大きく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2007.02.07 執筆

とりあえず、バレンタインまで頑張ります。