Warm Corner 101

 

 

 

 

 

、反抗期なお年頃です。

 

 

 

 

 

「いつまで拗ねているんだ。 ドリンク、入れ終わったなら配りに行け。」

「……んだよ。 自分で取りに来いっつの。」

「まあそう言うな。 マネージャーの一つ一つの行動の大事さがお前にもすぐわかるだろう。」

「わかりたくもないね。 興味ない。」

 

 

 

 

 

私が素っ気無くそう言ってドリンクの入った籠を持ち上げると、柳君が困ったように笑った。

全く、アンタが余計なことを弦一に言わなきゃ私は今頃家でゴロゴロしてたのに。

暇なんてあるわけないじゃん。

 

 

 

 

 

「ほらよ、少年受け取れい。」

「うわぁっと! 投げないでくださいよ!!」

「許せ。 そっちまで行くの面倒だったんだ。」

「理由が思いっきり不謹慎ッスよ。 あーそういやマネージャーさん変わったんだっけ?」

「うん。 だから今日から君達の自主性を重視するから頑張ってね。」

「それってただ先輩が面倒だからって理由なんじゃないんスか…?」

 

 

 

 

 

思いっきり疑いの眼差しを向けられて私も思わずバレたか、という表情を浮かべた。

まさかコイツ、ほんの二言三言で私の本性を見抜くとは…なかなかやりよるの。

 

 

 

 

 

「オレ切原赤也ッス。 先輩は?」

。 弦一…副部長の幼馴染だからって仕事真面目にすると思わないでね。」

「幼馴染なんスか。 へー初耳。 っつか、真面目にやってくださいね。」

「面倒事はごめんなんだ。 私あんまり熱くなるのとか好きじゃないし。」

「うっわー超無気力!」

 

 

 

 

 

ケラケラ笑って何処かへ行ってしまったワカメ頭の切原君。

弦一からたまに訊いたことがある一年の生意気少年とはまさにこの子のことだろう。

何しろ、あの弦一含む三強に喧嘩売ったんだとか。

つーか、幸村君に喧嘩売るたぁいい度胸だ。

それ即ち私にも喧嘩売ってんのと一緒だからね。

 

 

 

 

 

さん、俺にもドリンクくれん?」

「ん、どぞ。」

「サンキュ。」

 

 

 

 

 

仁王君にドリンクを手渡し、肩をボキボキと解して欠伸を零す。

昨日夜中まで格ゲーやってたから眠いったらありゃしない。

こんなことなら美容も考えてもっと早くに寝りゃ良かったわ。

 

 

 

 

 

「おうおうでっかい欠伸じゃのう。 女やったら隠さんか。」

「大きすぎたら隠したってどうせ見えるんだ。 隠すだけ無駄。」

「ハハハ、そりゃ正論じゃ。 じゃけん努力ぐらいしてもええじゃろ。」

「ヤダ。 どうせ誰も見てないからええんじゃ。」

「おい、俺思いっきり見とったじゃろが。」

 

 

 

 

 

くくくと喉を鳴らして笑う仁王君の顔は噂どおりとても綺麗で、女の子の人気を誇るだけあるなと思った。

ただこの微妙な方言が残念だけど。

ちょこっとだけおじいちゃんと話してる気分になった。

元気かな、田舎のじいちゃん。

 

 

 

 

 

「で、お前さんが幸村に惚れとる言う話は本当か?」

「誰から訊いた!! アイツか!! あの老け面か!!?」

「老け面て…。 まあ当たってるようで当たってないようで…じゃの。」

「誰!? 誰かはっきり言いなさいよ! そんな乙女の羞恥心を晒す様なマネをしたのは誰だー!!」

!! お前は練習中だということも忘れて何を騒いどる!! いい加減にせんか!!」

 

 

 

 

 

私が一人で発狂していると、怒りを露にした幼馴染がドスドスとやって来た。

ちょっと引いていた仁王君が一歩後ろに下がる。

私も弦一に負けじと突っかかって行った。

 

 

 

 

 

「こンの野郎!! 乙女の羞恥心晒しやがってー!!」

「何の話だ! とにかく黙れ! 練習の邪魔だ!!」

「幸村君は私の王子様なの! 別に惚れてるわけじゃなくて憧れだ! 勘違いすんなバーカ!!」

「一体何の話をしとるんだお前は! 何が王子様だ! 笑わすな!!

そんなくだらんことばかり言っとる暇があったらさっさと空になったドリンクを回収してこんか!!」

「…さん、自分で自分の恥を晒しとることに気づいとらんみたいじゃの。 まあええか。」

 

 

 

 

 

ベンチの辺りで大声で怒鳴り合う。

何だなんだとギャラリーが増えてきた所で弦一が一度息を吸い、思いっきり私に向かって叫んだ。

 

 

 

 

 

「とにかくお前は一度グランド30周走って来い!!」

 

 

 

 

 

で、今私走ってるわけですよ。

ええ、そりゃもうすっごい勢いでグランドをグルグルグルグル。

今何周かすらわかんねーよ。

部活初日にしてこの仕打ちは何ですか。

虐めですかそうですか。

 

 

 

 

 

「それにしても足速いのお前さん。」

「何で仁王君まで走ってんのさ。」

さんと無駄話しとったから俺も走れ言われた。」

「そうだ、アンタの所為で私走らされてるんだからね。 シュークリーム奢りなさいよ。」

「なしてシュークリーム?」

「好きだから。」

「………理不尽じゃのう。」

 

 

 

 

 

私が速いと言いながらもやはり仁王君の方が速い。

少し私の前を苦笑いしながら走る仁王君。

たぶん仁王君は私のペースに合わせているはずだから本当の彼はもっと速いんだろう。

 

 

 

 

 

「知っとった?」

「何を?」

「テニス部は部内恋愛が禁止だってこと。」

 

 

 

 

 

ニヤリと振り返った仁王君の表情はまさに悪戯っ子の極みと言いましょうか、

とにかくものすごく意地悪な顔して笑ってた。

そりゃもう腸が煮えくり返りそうなくらい。

 

 

 

 

 

「なにー!! だったら私と幸村君の未来予想図はどうなんの!?」

「さあ、どうなるんじゃろ。」

「テメッ他人事だと思って簡単に言いやがって…!! 誰だよそんな意味わかんないルール作ったの!!」

「さあ、誰じゃろ。」

「ちょ、アンタ知ってんでしょ! 答えなさいよ!!」

 

 

 

 

 

猛スピードで走りながら仁王君を睨みつける。

くっそー誰だよそんなクソくだらないルール作った奴は!!

ぶっ潰すぞこんにゃろう!!

何のために私がマネージャー承諾したかわかんなくなるじゃんかクソが!!

マジでぶっ潰してやる誰だ!!

 

 

 

 

 

「幸村……だけど?」

 

 

 

 

 

ノーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!

 

 

すんませんすんませんすんません!!

嘘です嘘!

潰すなんてこれっぽっちも言ってません!

わーなんて素敵なルールでしょう!

ですよねー部内恋愛とかクソ食らえッスよねー!

汗と青春の部活動に甘ったるい恋愛なんて必要ないっての!

 

 

 

 

 

「お前さんコロッコロ表情変わりよるの。」

「部内恋愛禁止って素晴しいね! ね、仁王君!!」

「……言ってろ。」

 

 

 

 

 

仁王君が呆れたように鼻で笑って少しスピードを上げた。

悔しいから私もややスピードアップして間を開けられないようについて行く。

 

 

 

 

 

「まあこのルールが出来たのには理由があるんじゃ。 少し前までマネージャーになりたいって奴が多くての。

真面目な奴がほしいっつーわけで、幸村が部内恋愛禁止っつった途端、物の見事に希望者が減った。」

「驚くほどみんな素直だね。」

「それでもまだ不真面目な奴が多かったんじゃが、来栖がマネージャーになって落ち着いた。

のに、また辞める言い出して…本当、困っとったんに。 まさかさんが幸村目当てだったとは…」

 

 

 

 

 

あーあ呆れたーとでも言わんばかりの表情で私を見る。

んだコイツ、ムカつく言い方しやがって。

憧れの王子様、幸村君のために部活入って何が悪い。

幸村君に是非私を(ちょっと大げさ)って言われたらそりゃなるしかねえだろ馬鹿が。

つーか、幸村君いないのに頑張ってる私見て何とも思わんのかコイツは!!

 

 

 

 

 

「気に食わないんだったら辞めるよ。 今すぐにでも辞めます。 後は頑張ってください。」

「待て待て。 別にそこまで言うとらんじゃろ。」

「私にはそう聞こえた。 超不快感与えられた。 嫌味ったらしいのよアンタ。」

「……そりゃすまんの。 こういう言い方しかできん性質なんよ。」

「悲しい性分だね。」

「お前さんに言われたくなか。」

 

 

 

 

 

そろそろ三十周なんじゃないかってところで足を止める。

すぐに立ち止まっては体に悪いのでゆっくりと歩き続けた。

罰が悪そうに笑う仁王君も私と同じように歩く。

 

 

 

 

 

さんって、自由な人間じゃの。 なして憧れたんが幸村なんじゃ?」

「だって、幸村君って理想の王子様じゃない? カッコイイ!」

「カッコイイって…どの辺りが?」

「強くて、笑顔が素敵で、優しくて、大口開けて笑うあたりが!」

「最後のが理解できんの。 …まあええじゃろ、なるほどな。」

 

 

 

 

 

私が夢見る乙女みたいに目を輝かせて

幸村君の上げ切れないくらい無数にある良いところを伝えると、

仁王君は頷きながら歩くのをやめてコートへと戻っていった。

釣られて私もそろそろマネージャー業に戻ろうと踵を返そうとしたその時だった。

 

 

 

 

 

「あと三周だ!! 自分の走った回数くらいカウントしとかんか愚か者!!」

 

 

 

 

 

何故か私だけもう三周走らされました。

マジあの男、ありえないんだけど!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2007.02.07 執筆

主人公は愛されてなんぼ。 これからですこれから。