Warm Corner 101
、悩みがちなお年頃です。
「やっぱり赤也は問題を起こしちゃったみたいだな。」
そう言って困ったように笑った幸村君は病院の屋上から神奈川という街の夕暮れを眺めた。
「ごめん、あんな大口叩いときながら…結局止めたのは弦一だった。」
「ああ、全然かまわないよ。 それにほら、真田は手慣れてるから。
ああなった赤也を止めるのは簡単なんだ。 少々手荒だけどな。」
「……びっくりした。 まさかあんなに目が赤くなるなんて知らなかったし…。」
「言ってなかったからね。 ごめんね、さん。」
「ううん、大丈夫。」
そよそよと私達の間を擦り抜けていくそよ風に当たりながら、二人並んで格子にもたれ掛かった。
夢のようなシチュエーションなのに、何故だかずっと胸の辺りが苦しかった。
「でも、大事に至らなくてよかったよ。 ありがとう。」
「そんな、私何にもしてないし…」
「話を聞いているかぎりさんの存在がなければ
赤也はもっと早くに試合を持ち掛けて相手を潰してたと思うけど?」
「……そう、かな?」
「うん、だからありがとう。」
慰めるように言葉を選んで話してくれる幸村君はやっぱり素敵だった。
少しずつだけど、胸の蟠りが解けていっているような気がする。
なんだか、ホッとした。
まるで緊張の糸がプツリと切れたみたい。
「それにしても、赤也は本当どうしようもない奴だな。」
「単細胞だよね。 ちょっと私に似てる。」
「ハハハそうかもね。」
……否定してはくださらないんですね。
いいよいいよ。
期待はしてなかった!
「だけどさんは歯止めがきく、そうだろう?」
「……どうだろうね。」
「大丈夫、さんは自分を抑えることを知っている子だよ。 赤也と違ってね。」
「切原君は…」
「赤也はまだそれを知らない。 ただ、確実にいい方向へ向いているみたいだけどな。」
「?、それはどういう意味?」
理解力に乏しい私はやはり幸村君の言っていることは理解できず、首を傾げる。
幸村君はちょっとだけ昔を懐かしむように笑って言った。
「赤也はね、一年の最初の時にマネージャーを殴ったんだ。」
「え!? マネージャーって…女だよね!?」
「うん、今回辞めちゃった来栖さんっていう子なんだけど。
その時も今日みたいに赤也は喧嘩を買って相手を潰そうとした。」
「き、切原君は喧嘩っ子なんだね…」
「ハハハ、昔っからね。 喧嘩っ早かったな。 で、来栖さんが止めに入ったんだけど
熱くなって周りが見えていない赤也は彼女殴った。 すぐに後から駆け付けた俺や真田が止めに入ったけどね。」
「来栖さん、怒らなかったの?」
「彼女は活発ではなかったけど、優しくてね。 笑って許したよ。
だけど部としてあまり良くないことだったから三日間の謹慎処分は下したけど。」
不謹慎だけど殴られなくて良かったと本気で思った。
だってあの切原君に殴られたら、いくら毎日弦一にボカスカやられてたって一発でKOだよ。
それくらい殺気がやばかった。
「そんな赤也が、さんを殴らずに、むしろ身を按じたってことは…良い傾向なんじゃないかって思ったんだ。」
「そっか…そうかも。 進歩してるじゃん切原君!」
「うんだからね、俺はアイツを見捨てずに育ててやりたいと思う。
今は俺自身こんなだしみんなに任せる他ないけど、ちゃんと赤也を叱ってやってほしいんだ。」
「幸村君…」
ああ! なんて素敵な方なんでしょう!
後輩のことをここまで考えていらっしゃるなんて!
神ですかそうですか!
貴方は神なんですね!
嗚呼なんて慈悲深いんだ!
私は感涙極まって思わず泣いてしまいそうになった。
「ここで見捨てちゃったら赤也はいつまでもこのままだからね。
せっかく良い方へ向かってるんだから最後まで面倒見なきゃな。」
「ッ、幸村君! 今回は失敗しちゃったけど私に手伝えることがあるなら何だって言ってね!
非力ながらに力にならせていただきます!」
「ハハ、ありがとう頼もしいよ。 だけどね、さんにはただテニス部にいてもらえるだけでいいんだ。」
「……それは何故?」
「ふふ、内緒だよ。」
そう言って幸村君は綺麗な顔を近づけ、私の耳元でコソリと呟いた。
『赤也はね、つい最近まではずっと成長してなかったんだ。 意味、わかるよね?』
わかりません!
理解力に乏しい私がそれだけでわかるはずがないでしょう!
とも言いづらく、この日、私は幸村君との別れを惜しんで帰ることにした。
今度は手土産にチョコシュー持ってこっと。
――――――――――――――――――――――――
2007.02.14 執筆
神の子は天使の仮面を被ってるだけの人間だと思う。 ひぃぃぃごめんなさい!