Warm Corner 101

 

 

 

 

 

、理不尽なお年頃です。

 

 

 

 

 

「迷子になるなよ。」

「はーい!!!」

 

 

 

元気良く右手を頭上へと突き出すように上げれば、柳君は「声がでかい」と言って苦い顔をした。

彼の機嫌を損ねると結構後々面倒だから適当に平謝りを繰り返す。

すると彼は無表情のままでますます無言になってしまった。

 

怒ってるよ怒ってるよ。

面倒くさい男だなーもう。

 

 

 

「ねえねえ柳君、本当にこんな事で大丈夫なの?」

「問題ない。 お前を連れているという時点で初めから見つかるのは時間の問題だ。」

「……どういう意味ですかねそれは?」

「相変わらず頭の悪い奴だな。 俺達立海の制服、もしくはジャージでここへくれば明らかに目立つ。

 それをここの制服を着ることによって目立たなくする。 木を隠すなら森へというだろう。」

「やーそこはわかってんスよ柳さん。 その、なぜ時間の問題なのですかねー。」

「お前といると必ず問題が生じる。 俺の顔は向こうに知られているからな。

 向こうとお前が接触してしまえば俺達がここの生徒ではないとすぐバレる。 だから時間の問題だ。」

 

 

 

へーそーですかー。

それつまり私が大人しくしてれば問題ないって言いたいんですよね。

私がどう動くかでどれだけのデータを収集できるか決まるって言いたいんですよね。

 

つまりは大人しくしとけってか?

 

だったら何で私を連れてきたんだっつーの。

クーラーの効いた部屋で涼んでいたかったのに。

いや、部活出なきゃなんないんだろうけど。

 

 

 

「しかしです柳隊長! この制服はどこから調達してきたのですか!? 甚だ疑問であります!!」

「そうだな、隊員。 知り合いからとでも言っておこうか。」

「はあ、知り合い、ですか…。」

「そうだ、知り合いだ。」

 

 

 

きっぱり言い切られた悲しさと、隊長ごっこに乗ってくれた驚きで私の顔は表現しにくいほど微妙な顔になった。

はあ、知り合いから他校の女子と男子両方の制服を借りれる物なのかね。

まあ今は夏休みだし?

知り合いがいれば借りることも容易いだろうけど…。

 

しかし何故制服着なきゃなんないのだ。 コスプレか?

 

 

 

「あーお前立海の柳じゃね?」

 

 

 

振り返れば何だか可愛らしいオカッパ頭の少年。

今まで水でも飲んでいたのか、水色のタオルを首からかけて口を拭いながらコチラへ向かってやってくる。

夏の太陽に照らされた真っ白な生足がキラキラ輝いてて眩しかった。

 

って何で柳君はそんな目して私見てんの?

今見つかったのって私が悪かったの?

彼思いっきり柳って呼んでたけどそれでも私が悪かったの?

てか即行見つかっちゃったんだけど。

今の絶対、私、悪くないよね……?

 

 

 

「何氷帝(うち)の制服なんか着てんだよ。 コスプレか?」

「……………。」

 

 

 

違う、なんて否定できませんよね。

立派なコスプレですよねこれは。

 

 

 

「氷帝に何の用だよ。 あ、そうだ、跡部か? 跡部に用事? 何だったら呼んで来てやろうか?」

「いらんことせんでいい少年!!」

「……あ、何だよ、人が親切で言ってやってんのに………柳の連れ、か?」

「全くの他人だ。」

「立海のマネージャーですけど何故ですか!!!?」

 

 

 

ここにきて他人のフリなんて酷いぞ柳ぃ!

 

 

 

「って言ってるけど…どうなんだよ。」

「そうだったか。 よし、じゃあ帰っていいぞ。

「連れて来たのアンタでしょ!? 何この扱い!! ちょっとってかかなり酷すぎない!?」

「柳ー、マネージャー虐めてないで可愛がってやれよー。」

 

 

 

私と同じくらいの身長のオカッパ少年が苦笑いを零しながら言う。

そうだそうだ。

もっと可愛がれ。

忘れてるようだけど、私やりたくてやってるんじゃなくてボランティア精神で入部したんだからね。

そこ覚えてなさいよ。

 

 

 

「あーもしかしてお前ら偵察に来たわけ?」

「まあね!」

「威張って言うところではないぞ。 まったく、偵察の意味をわかってないだろうお前は。」

「な、失礼ねわかってるわよ!!」

「わかってたらそんなあっさり認めねぇって。 ま、否定してもバレバレだけどな。」

 

 

 

そりゃあね。

コスプレまでしてるんですものね。

 

 

 

「いいじゃん、見てけよ。 って、俺が許可したって部外者立ち入り禁止なんだけどな、氷帝(うち)。」

「えーでも私達制服着てるしバレないって大丈夫大丈夫。」

「…お前が言うなよ。 ま、確かにそうだけど。」

「氷帝は生徒の人数が多いからな。 バレはしないと思うが…、」

「見つかった時に跡部達が何て言うか、だな。」

 

 

 

ちらっとコートがある方へと視線を向ける。

そんな身体の大きさと違って心が寛大なオカッパ少年をじっと見つめていると、

視線を元に戻した拍子にオカッパ少年と目があった。 うわっ大きな目。

 

 

 

「…何威嚇してんだよ。」

「失礼ね、見てただけよ。」

、他校生に怪我だけはさせるなよ。」

「だから見てただけって言ってんだろ!!」

 

 

 

何だコイツら!

失礼だぞ!

侮辱罪だぞ!!

 

 

 

「そういえば今日って練習試合なんじゃないの? だから来たんじゃないの? 試合やってるようには見えないんだけど。」

「あーそれがさ、相手の手違いで試合なくなっちまったんだよ。 だから今日は普通に練習だぜ。 おかげで跡部の機嫌チョー悪くってさ。」

「えーじゃあ何のために私達ここまで来たのよ!」

「俺に言うなよ知らねぇし。 おい、柳どうすんの? 練習見て行くんなら一応跡部に訊いてみてやるけど?」

「そうだな、練習だけでも見ていくか。」

「って言っても今の跡部の機嫌じゃあ追い返される確率の方が高ぇけど…」

 

 

 

んじゃあちょっと待ってろ。 と言って柳の返事を訊いたオカッパ少年は私達を残してコートの方へと向かって行ってしまった。

残された私達は言われた通りにその場で“跡部”が来るまで待っていることに。

どうか“跡部”が来るまで誰もここを通りませんように!

 

コスプレしている事がものすごく恥ずかしいのは私だけなのかな…。

柳君はありえないくらい澄ました顔してるし。

彼は常識人なのか飛びぬけて常識がないのか時にわからなくなるんだけど。

そもそもどうせ氷帝生に見つかったんならさ、普通に来て交渉すれば見せてもらえたんじゃないの?

 

 

 

「ねえ柳……」

 

 

 

……っいねぇ!!!!!!!!

 

 

 

振り返れば、そこにいるべきはずの人物はいない。

思わず頬が引き攣る。

え、何? 何なの?

 

 

 

 

「ちょっ…………マジ?」

 

 

 

何処行きやがったあの参謀様はぁぁあああああああ!!!!

 

 

 

「アーン、女しかいねぇじゃねぇか。」

!?……ぎゃぁあー! 殺されるー!!」

「降ろしてやれ樺地、うるせぇ。」

「……ウス。」

 

 

 

急に身体が浮いたと思ったらまた地面へと降ろされる。

 

ろろろろろろろろろロボット!?

ロボットがででででで出た!!!

 

バックバック大きく波打つ心臓を抑えながら振り返ると、男そこには私を怪訝の眼差しで見つめる黒子がいた。

 

何!? 何!?

ちょっ、本当に柳君はいずこー!!

神隠し!? 柳君が神隠しにあっちゃったよー!!

ひぃい! 敵陣に私ひとりを残して消え去らないでくれ柳さーん!!

 

 

 

「おい女、柳はどこだ。」

「そ、それが、か、神隠しに…」

「おい女、柳はどこだ。」

 

 

 

え、訊かなかったフリ?

 

 

 

「知らないよ、急にいなくなっちゃったんだよ! 私どうしたらいいの!?」

「…おい、向日!! ちょっとこっち来い!!」

 

 

 

半泣き状態で目の前の黒子に懇願するように現状を伝えると、

彼は面倒くさそうに一度溜め息を吐いて、そしてコートの方へ向かって叫んだ。

すぐに軽快な足音が近付いてきて、先ほどのオカッパ少年が姿を現す。

しかし、今度は後ろに何かオマケ的なモノを連れて。

 

 

 

「んーどうした跡部ー。」

「何だこの女は。」

「あ? あー…柳の連れだって。」

「柳の女か。」

「いや、マネージャーだって言ってたような言ってなかったような……自称?

「正式なマネージャーです!!!!!」

 

 

 

おや、何でそんなに疑った目で見てくるのこの黒子。

え、潰していいの?

その目、潰していいの?

 

 

 

「おい、柳どこ行ったんだよ。 待ってろって言っただろ。」

「知らないよ、本当に急に忽然と姿消しちゃったの! 神隠しだよ絶対! 助けて少年!」

「…柳の携帯番号とか知らねぇのかよ。」

「うん、知らない。」

「お前それでもマネージャーかよ。 部員の番号も知らねぇの?」

 

 

 

だって、必要ないんだもの。

だいたい連絡網的なのは全部弦一がやってるもんね。

 

 

 

「ねえねえ、ところでその背中に乗ってるの、何?」

「ん? ああ、これ?」

「うんうん!」

「ジロー。」

「ジロー?」

「そ、ジロー。」

 

 

 

オカッパ少年の首に抱きつくようにぶら下がっているのは、どうやら“ジロー”らしい。

眠っているように見えるが、よくそんな体勢で寝ていられるものだなと思う。

ていうか、せめて背負ってあげようよ。

君だって首が苦しいでしょ絶対。

 

 

 

「何でジローを背負ってんの?」

「そこで拾ったから。」

 

 

 

そこに山があるから登るんだ…みたいな?

登山家の思想的な感じ?

 

 

 

「…へー。」

「何だよその理解できないから適当に返事しとけみたいな感じは。」

「そんなことないよ、拾ったんでしょ。 わかるわかる。」

「わかってねぇだろうが。 適当に返事するんじゃねぇよ。」

「いだっ!!!」

 

 

 

叩いた! 今この人叩いた!!!

信じられない初対面の人間叩いたよこの人!!!

黒子何様じゃ貴様!!!

 

 

 

「えーん私もう帰りたいよやーなーぎーくーん!!

「ったく、アイツこんな面倒な女置いてどこ行きやがたったんだ。 おい樺地、捜してこい。」

「……ウス。」

 

 

 

泣きマネを始める私をものすごく煩わしそうに尻目に置いてロボットを発進させる黒子。

何あれ、すげぇ最強じゃん。

ていうか誰が面倒な女だコラ。

いつ私がアンタに面倒かけたよ。

面倒かけたの柳君じゃん私じゃないじゃん。

 

 

 

「ねぇ、ここにいるのもなんだからとりあえず部室にでも案内してよ。」

「おい向日、何だこの図々しい女は。」

「だから柳の連れだってば。 もとい自称立海のマネージャー。」

違う!! 正式なマネージャーだって言ってるでしょうが!!」

「胡散臭ぇんだよ。 誰が信じるかってんだ。」

 

 

 

今度こそ本当に威嚇する私を黒子が鼻で笑う。

くそっなんかこの男鼻につくな。 ムカつく。

ていうか何で信じてくれないんだ。

 

 

 

「足痛いー座りたいー。 もう柳君どこ行っちゃったのよ!! 帰ってきたら絶対クロスアタック食らわせてやる…。」

「えー俺は四字固めがいいと思うなー。」

「嫌だよ。 何で私が柳君に、って……!?

「おーマジマジすんげぇ顔!」

 

 

 

じ、 ジ ロ ー !!!!?

 

 

 

「近ッ、ッてか近ッ!!

「ねえねえ今の顔もう一回やってー!」

 

 

 

誰がするか!!!!!!

 

近い。 とにかく近い。

聞き慣れない声に何も疑問に思わなかったけど、すぐ隣に人の気配を感じてふと横を向けばそこには見知らぬ顔があった。

そうだ、さっきオカッパ少年が首からぶら下げていたジローだ。

彼が大きなお目めをギラギラさせて私をじっと見つめてくる。

何? え、その目潰していいの?

 

 

 

「ジローまた練習サボってやがったな。」

「あ、跡部だ。 おはよー。」

「向日、コイツの顔面めり込むまで殴っていいぜ。」

「…バカ死ぬっつの。 ジロー近いって、離れろよ。」

「ぐえっ。」

 

 

 

呆れきった顔をしたオカッパ少年がジローの後ろ襟を引っつかんで私から引き剥がしてくれた。

おお、神よ。 救世主がここにいる…!

 

 

 

「なあなあ跡部この子だれだれー!?」

「変質者だ。」

「立海のマネージャーです!!」

「マジマジ!? 立海の変質マネージャー!?」

「立海の正常なマネージャーだっつってんだろこの耳かっぽじってよく聞け!!!」

「…うぇー耳がキーンってする〜。」

 

 

 

 

耳の端を引っつかんで叫んでやるとジローは顔を歪めて耳を押さえた。

 

ざまーみろ、誰が変質マネージャーだ。

…誰が変質者だって黒子。

テメェいい加減にしろよコラ。

 

 

 

「あ、樺地だ樺地ー!」

「…ウス。」

「おい樺地、いたか?」

「…この辺りには…いません、でした。」

「アーン、何だと?」

 

 

 

何でそんな目でこっち見るの?

知らないですよ?

私だって知らないんですよ?

私見たって柳君は出てこないよ?

ウザイよ何疑ってんだよ黒子。

 

 

 

「もういいよもう知らない。 私柳君放って帰ります。 さようなら。」

「待て、お前らにこれだけ振り回されてさっさと帰すわけねぇだろうが。」

「嫌だ! 私帰りたい! 悪いの全部柳君だよ私知らない!!」

「お前ら二人とも同罪だ。 いけ、樺地。」 パチンッ

「ウス。」

「ぎゃぁぁあああロボット使うなんて卑怯だぞコノヤロウ!!」

「ロボットじゃねぇ樺地だバーカ。」

「ぎゃぁぁあ怖いよー助けて殺されるぅぅぅううううう!!!」

 

 

 

ひぃぃい! 大きいの追いかけてくるよ!

何あれズルイよ! 歩幅からして全然違う!

いたいけな女の子に大男使うなんて何て奴なの!

うちの弦一より性質悪いなこの男!

 

 

 

「ひぃぃぃい何で私がこんな目に遭わなきゃなんないのよー!」

 

 

 

柳アイツ絶対呪ってやる!

 

呪詛だ! 呪詛をかけてやる!!

 

 

 

「他校まで来て煩いぞ、少しは静かにしろ。」

「いだぁーっ!!」

 

 

 

…何?

今何が起こったの?

 

今何かものすごく後頭部に衝撃を感じたんですけど。

ノートみたいなもので叩き倒された気がするんですけど。

 

なんで私顔面スライディングしてんの?

鼻、鼻ある?

鼻擦れてなくなってない? 大丈夫?

 

 

 

「おい跡部、あれ柳じゃん! ほら!」

「…テメェ柳、今までどこ行ってやがった。」

 

 

 

ちょっ、みんな私は?

どうして私が転んでるのかとか…そっちはどうでもいい感じ?

だよね、だよね。 うん、私は大丈夫。 心配しないで……うう゛。

 

 

 

「大丈夫ー? 鼻真っ赤だよ?」

「……ありがどうーうう゛っ。」

「よしよーし、痛いの痛いの飛んで行けー!!」

 

 

 

起き上がって虚しさのあまり泣き出す私の顔を覗き込むジローがよしよしと頭を撫でてくれた。

うう、いい子だ。 君は天使だ。

 

 

 

「大丈夫だ。 放っておけばいい。」

「そろそろ本気で呪うよ柳君。」

「止めておけ、呪詛返しという言葉を知っているだろう。」

 

 

 

……ッ、くそう!!

悔しいけど勝てる気がしない!!!

 

 

 

「で、柳。 俺様はどこに行っていたと聞いているんだがな。」

「すまんな、お手洗いに行っていた。」

「はあ? それならちゃんとコイツに言ってから行けよ。 コイツ神隠しにあったとか言って騒いでたぞ。」

 

 

 

オカッパ少年の言葉に柳君の鋭く冷たい視線が私に突き刺さる。

何だそのバカを見るような目は!

一瞬で姿を消す方が悪いだろ普通に!!

 

 

 

「ちゃんと言っただろう、聞いてなかったのか。」

「言ってないよ知らないし! ………え、言ってなかったよね?」

「すんげぇ曖昧だなあー。」

 

 

 

信用性に欠けるーなんて言いながらジローが笑う。

笑い事じゃない。 笑うんじゃない。

私の記憶ではそんな言葉一言も聞いた覚えがないんだけど…え、何これ私が悪い感じ?

 

 

 

「跡部、うちのマネージャーが世話をかけたな。 すまなかった。」

「フン、もう少しちゃんと躾けておくんだな。 コイツの存在は公害並だ。」

「んだとコラ。 私の存在が公害並ならその黒子の失礼さも公害並だろ。」

「アーン、てめぇ口答えするならコート出ろ。 相手してやるよ。」

「ハッハッハッ私がテニスを出来るとでも思ってるのか黒子の少年! 答えはノーだよ!!

「…うーわ、威勢いいけどかっこ悪ぃ。」

 

 

 

今のオカッパ少年の顔がものすごく腹立たしかったんだけど

蹴り飛ばしてもいいよね? 許されるよね?

私結構今まで我慢して来たよね? 偉い方だよね?

 

 

 

「おい、迷惑かけたんだ。 とりあえずは謝っておけ。」

「何で私がッ……………わかりました!!

 

 

 

目を開けるなんてズルイぞぉ柳ぃぃぃぃ!

 

 

 

「本日はご迷惑おかけしまして申し訳ございませんでした!!」

「ハッ、やればできるじゃねぇのよ。」

「謝り慣れてるからね!!」

「…それってどうなの?」

「おいジロー、話が上手く纏まりそうだから口挟むなよバカ。 この女また騒ぎ出したら面倒だろ。」

 

 

 

聞こえてるよオカッパ。

お前絶対いつかその髪の毛逆立ててやるからな。

 

 

 

「ではマネージャーが迷惑をかけたことだし今日のところは帰らせてもらおうか。」

「そうしてくれ。 そして二度とこの女を連れて来るな。」

「…ちょっと、私そこまで言われることした覚えないんだけど…酷くない?」

「ハッ、とっとと帰れ。 面倒くせぇ女はお断りだ。」

「何ですってこの黒子めがぁぁあああああ「煩い。」…イタッ!!

 

 

 

今何で打った!?

今何で打った!?

 

絶対今の携帯握った手だったよね!?

私の動体視力舐めんじゃねぇぞ柳!!

 

 

 

「邪魔したな。 失礼する。」

「ギャァッ、くっくび、首絞まる首絞まる!!! 息ッ息ッ息できなっぐえっ!!

 

 

 

後ろ襟を掴まれて引きづられるようにして氷帝学園を出て行く。

段々と遠ざかっていく景色と意識の狭間で私は思った。

 

この扱いは酷すぎる。

 

そしていつか絶対呪ってやる、って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…帰りの電車内。

揺れる車両に思わず意識が船を漕ぎそうになる。

 

 

 

「結局今日は何のために行ったのかわかんなかったね。」

「データ収集のためだろう。」

「そうだけどデータ収集なんてしなかったじゃん。 トイレ行ってただけじゃん。」

 

 

 

二人並んで座りながらそう言うと、柳君はフッと口元に笑みを浮かべて言った。

 

 

 

「心配ない。 お前が囮になっている間に満足のいくデータ収集ができた。」

「…おとり?」

「そうだ囮だ。」

 

 

 

口元がヒクつく。

落ち着け。 落ち着け。

ここは電車内だ。 隣は優先座席。

オーケー、大丈夫そんな感じ。

ゆっくり深呼吸。 そうそう落ち着いてー。

 

 

 

「囮ってどういうことなの柳君。 私バカだからよくわかんないや。」

が跡部の相手をしてくれていたようで助かった。 礼を言うぞ。」

「……お手洗いは?」

「そんなに長いお手洗いがあるわけないだろう。 大の方じゃあるまいし。」

 

 

 

柳氏からバカを見る視線がまたしても注がれる。

目が合うと、彼はものすごく勝ち誇った笑みを浮かべて言った。

 

 

 

、お前は十分役に立った。 連れて来た甲斐があったぞ。」

 

 

 

優しくそっと肩に置かれた手。

認められた私の本日の功績。

 

 

 

なのに殺意しか芽ばえないのはどうしてなんだろう。

 

 

 

やぁあなぎぃぃいいい貴様ぁぁああああああ「電車内は静かにしろ。」……はいすんません。」

 

 

 

でもやっぱりこの人にだけは勝てない気がするのもどうしてなんだろう。

負けるな、。 頑張れ、

 

 

 

 

 

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2009.08.18 執筆

氷帝との初絡み。

こう見えて跡部はヒロインを結構気に入ってたりする。

早く氷帝と青学と四天を出したいな。