Warm Corner 101
、恋も恥らうお年頃です。
「何じゃ、こりゃおはぎか?」
「シュークリーム。」
「何コレ爆弾?」
「シュークリーム。」
「新兵器っスか?」
「シュークリームだっつってんだろうがぁああ!」
14日、バレンタインデー。
部室の机の上には黒い球のような固まりが複数並んでいた。
もちろんこれは私から彼らへの親しみを込めてのプレゼントだ。
有り難く受け取りたまえ。
「っつったってオメェこりゃ明らか残飯処理じゃねえか。」
「あれ、丸井君は残飯は俺に任せとけ!なタイプじゃなかったの?」
「や、残飯ですらねえじゃんこれ。 真っ黒いウ○コの固まりじゃねえか。」
「ンだとゴラァア!!」
「丸井君お下品ですよ。 口を慎みたまえ。」
お下品っつーか失礼極まりないだろ今の発言!
私の大好物のシュークリームがウ○コと同じにされてしまったのですよ!?
なんたる侮辱!
侮辱罪で訴えんぞ丸井ぃいい!
「ブン太サン! いくら何でもウ○コに例えるのは可哀相っスよ!
この黒くて丸い物体は先輩の頭の代償っスよ!」
「そう言うお前はこれ食えんのかよ赤也。」
「無理っス。」
「ほら見ろ。 食えねえくせに口答えしてんじゃねっつの。」
丸井君が得意げに切原君を見下す。
聞いてりゃ最高にけなされてんな私。
張り倒していいですか?
「赤也、のバレンタインを欲しがっていたのはお前だろう。 あれほど懇願していたじゃないか。」
「柳、遠回しに赤也に責任押し付けるのは良くないぞ。 いくら赤也でもこれは腹を壊すだろ。」
「じゃあジャッカルお前が食べるのか?」
「そ、それは…。 さ、真田! お前確か毎年貰ってたんじゃ…「たるんどる!
が一生懸命作って来たんだ、残さず食わんか!」
「また変なところで親バカが出たな、弦一郎。」
「初めてのお菓子作りですからね。 親心が出て来たんでしょう。」
柳君と柳生君とジャッカル君がこれでもかってくらい歪んだ表情で弦一を見つめた。
弦一、アンタは私の父さんか。
「ごめん、捨ててくれていいよ。 勿体なかったから持って来ただけだし。
……切原君も欲しいって言ってたからちょうどいいかなと思って。」
「う゛、先輩…、」
「……いいよ、どうせ私が作ったシュークリームなんてただのウ○コだもんね。 食べれるわけがないよね。」
「そんなことっ…!」
お前が言ったんじゃ!
「綺麗なシュークリームね、二個しか出来なかったの。 当然一つは幸村君で、もう一つは…「俺、これ食うっス!
先輩が作ったシュークリーム食いまーす!」
突然手を挙げて立ち上がった切原君が自分で言うのも何だが爆弾のようなシュークリームを手に取る。
みんな呆気に取られたように一瞬動きが止まった。
「あ、赤也正気か!? それ食ったらいくらお前でも病院行きに…」
「今の聞いたっしょ!? 先輩は俺のために持って来てくれたんスよ! 俺が食わなきゃ誰が食うんスか!」
「な、赤也お前…!」
「先輩の好意を無駄には出来ないっス! 先輩の愛をしかとこの俺が受け取ります!!」
「いや、残念ながら愛は詰まってないよ切原君。 私の愛は幸村く「だーったら俺が食う!
赤也が食うより俺が食った方が被害は小さいかもしれねえだろい? の愛はこの俺が受け止める!!」
「はあ!? アンタら一体何を急に…」
続いて丸井君まで立ち上がり、爆弾シュークリームを手に取る。
幸村君のために犠牲となった無惨なシュークリームが今二人の手によって握られているが、
果たしてアレを食って無事でいられるのかどうか、作った私ですらわからない。
本当にただの残飯処理程度に持ってきただけなのに。
大丈夫かな。 いや、大丈夫だとは思うけど…。
「待て赤也、丸井。 腹を壊したらすぐトイレに行く準備をしておけ。」
「洗面器も用意したぜ。」
「救急車って117でしたっけ?」
「たわけ! 119だろう! それくらい覚えておけ!」
「この新兵器にどれくらい殺傷能力があるのか見物ぜよ。」
「赤也君丸井君、決して無理をなさらずにお手洗いへ向かってくださいね。」
「おいコラ、腹壊す前提で話が進んでるじゃねえか。」
ちったぁ信用しやがれ。
まあこの姿を見たら信用できないのもわかるけど…。
作った本人いるのに遠慮のない奴らだ本当。
「それよりも、お前、味見はしたのか?」
「味見したよー! もう食べすぎて舌が麻痺しちゃうくらい。」
「今の一言でさらに信用度を欠いたな。」
「えーなんでー!?」
弦一と柳君と並んで共に丸井君と切原君がシュークリームと睨めっこしているのを眺める。
さあさあズズイッと食してくれたまえ。
「それじゃ行くぞ、赤也。」
「……ウィッス。 いちにのさんで食べますよ。」
「りょーかいっ。」
「んじゃ、いちにのさんっ!」
切原君の掛け声で共に真っ黒なシュークリームを口に入れる。
誰もがそんな二人を固唾を呑む勢いで見守った。
「ブ、ブン太…?」
「………………う、うめぇぇえええええええ!!」
「え?」
「うめえよコレ! 下手したらこの前幸村君にあげたシュークリームよりうめえって!! なあ赤也!」
「………あ、はい! ホントにうまいッスよコレ! ちょっと焦げの味はしますけど。」
「んなアホな…。 冗談じゃろ?」
「嘘じゃねえって食ってみろい!」
目を燦々と輝かした丸井君が疑念の眼差しで見ていた仁王君にズズイっと爆弾を差し出す。
あ、違ったシュークリームだ。
作った張本人である私もんな馬鹿なという目でその光景を目の当たりにしていた。
他のみんなも仁王君が恐る恐るシュークリームを小さく齧るのを心底心配そうに見つめた。
「………どうです仁王君。 おいしいのですか?」
「おお、こりゃうまいぜよ。 焦げと見た目はちとアレじゃが絶品じゃの。」
「マジかよ…仁王までそんなこと言うのか…? お前ら三人で嘘ついてるんじゃないんだよな?」
「ジャッカル先輩そこまで疑うんだったら一口食ってみりゃいいじゃねッスか。 うまいッスよ。」
「ほう、ならば俺もいただこうか。 弦一郎、お前も食ってみたらどうだ?」
「……あ、ああ、そうする。」
弦一貴様ッ!
あれほど食えってみんなに怒鳴ってた割には一番マズイと思ってたんだろ!
顔に何故美味いんだって書いてあるわ!!
「……おお、これはこれは。 さん、本当に美味しいですよ。」
「ふん、確かに見た目は最悪だが実にうまいな。 、お菓子作りのセンスはあるんじゃないのか。」
「いやいやーみんな褒め過ぎッスよ! 私照れるじゃない!」
「でも本当に、あとは経験を積んで腕を上げていったらいいと思うぞ。」
「ジャッカル君まで…! ちょ、じゃあ今すぐ幸村君のところへいざ「待たんか。」
調子に乗って今すぐに幸村君のところへ行こうとしたのを弦一に止められた。
クソッ、味見が済んだら私はもうここに用はないんだよ。
「先輩! で、綺麗に出来た一つは俺に「あげないよ。」
「何でッスか…。 ここは妥当に勇気をだして食った俺っしょ。」
「寝言は寝て言え。 誰が赤也なんかにやるかっつの。 、俺だろい。」
「いや、だからやらんて。 そもそもこれは「弦一郎にやるために、だろう?」
「あ、」
勝手に私の鞄から箱を一つ取り出し、弦一へと手渡す柳君。
弦一は驚いた表情で箱を見たまま固まる。
なっ、勝手に何しやがるっ…………!!
「素直じゃないな。 成功品は幼馴染にあげたかったんだろう?」
「………な、蓮二、何を…」
「俺達とはまた違う、毎年あげていた弦一郎にはちゃんとした物をあげたかった。
はこう見えても結構律儀だからな。 蔑ろにはできないタイプだ。」
「………ちょっと、何を勝手に…。」
みんなの視線が私へと集まる。
正論なだけに、何も言い返せなかった。
だって成功した時、真っ先に弦一にあげようって思ったんだもん。
毎年あげてるし、何だかんだ言って面倒見てくれてるし、
私のお父さんよりお父さんっぽいし……関係ないけど。
とにかく、今日一日、ずっと二人きりになるチャンスを窺ってたんだ。
だけどなかなか会えないうえに、一日中柳君やら柳生君やらと一緒にいてチャンスに恵まれなかった。
二人きりじゃないと絶対、不公平だとか言ってまた切原君あたりがブチブチ文句を言うから。
だから仕方なく、家に帰ってからあげようと思ってたのに。
なんてことをしてくれたんだ柳蓮二!!
「えーズルイッスよ! 俺それ欲しいから頑張ってこれ食ったのに!!」
「頑張ったって何だゴラァア!!」
「俺だってそれ欲しいから勇気出してこれ食ったんだぜい。 それくれよ。」
「お前らはそのウ○コでも食ってろ! これはダメー!! 弦一のなの!!」
「副部長はそこのウ○コ食ってりゃいいんスよ! それだって十分美味しいんスから!」
「だったらお前が食えや! 絶ー対ダメ!」
「つかお前さんらウ○コウ○コ煩いぜよ。 食えるもんも食えんくなるじゃろ…。」
まったくだ。
人が汗水たらして作った物をウ○コウ○コ言いやがって。
………私も自分で言ったけど。
つか切原君はそんなことを言っていて貰えるとでも思っているのだろうか。
この子は絶対口で損しているタイプだと思う。
「じゃあ俺幸村君の分もーらおっと。」
「ゴラァア丸井貴様ぁぁぁあああああ!」
「丸井君、さすがにそれははしたないですよ。 やめたまえ。」
「これッスかね…」
「テメエ切原ぁぁあああああああ!!!」
切原君が私の鞄からゴソゴソと取り出した幸村君のシュークリームが入った箱を慌てて掻っ攫う。
そしてあろうことか、そのまま逃亡した。
「! 何処へ行く!!」
「食われる前に渡しに行くんじゃ止めてくれるな!!」
「みんなで行こう言うたのに、裏切り者。」
「嫌な言い方しなでくれる!? 恨むならそこのガムとワカメを恨め!! じゃーな!!」
部室を抜け出し駆け足で病院へ。
きっと鞄やら置いてきてしまったものは後から弦一達が持ってきてくれるに違いない。
持ってこなかったら取りに帰らしてやる。
とにかく私は急いで愛しの幸村君の元へと向かった。
乱れた制服に、シュークリームが入った箱片手に物凄い形相の私を、
待ちゆく人々は不審者でも見るような目で、距離を開けて見ていた。
「やあいらっしゃい。 来てくれたんだ。」
「幸村君っ! これ………受け取ってください!!」
部屋に入るやいなや、勢いよく差し出したシュークリームが入った箱。
幸村君は「ありがとう」と言って笑いながら受け取ってくれた。
嗚呼、死んでもいいですか?
「ハハハ、これは何か新しい種類のお菓子?」
「え?」
「それか、おはぎかな…。」
幸せのあまり、自分の世界にトリップしかけていた私は慌てて幸村君の元へと戻った。
そして幸村君が手にしている物を見て驚愕。
「さん、頑張ったんだね。 初めての手作り、ありがたくいただくよ。」
いつの間にか摩り替えられてるー!!
その頃、病院へ向かって歩く彼ら ――
「ところで仁王、何故お前が成功したシュークリームを食っているんだ。」
「さあ、何でじゃろ。」
彼らが幸村の病室に付いた時、物凄い表情のが泣きついてきたという。
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2007.02.14 執筆
一応ひとりでバレンタイン企画、終わりです。 いつかこれ、シリーズ化したい。