Warm Corner 101
、おセンチなお年頃です。
まだ少し肌寒く、冷たい風が髪を靡かせ遊ぶ。
校舎から次々に出てくる泣き腫らした目をした人達を目で追いながら、
はただ一人ぼんやりとベンチに深く腰掛けていた。
「おやさんではありませんか。 何をしているんです?」
「おや柳生君ではありませんか。 何をしているんです?」
「……私が先に質問したんですけどね、まあいいでしょう。 私は卒業式が終わったんで今から部室へ向かうところですよ。」
「柳生君卒業式出てたんだ。 さすがだね。」
「流石の意味がよくわかりませんが…先輩にはたくさんお世話になりましたからね。 式に出るのもいいかと。」
「あんなクソつまんないオジサンの話聞くの私には耐えらんないから柳生君はすごいって意味だよ。 そっか、先輩達今日で卒業だもんね。」
「ええ、テニス部の先輩達もとうとう卒業してしまうのですよ。 寂しいものですね。」
そう言って柳生が懐かしむようにゆっくりと空を見上げる。
も釣られて空を見上げ、少し真上に近付いて来ている太陽に目を細めながら欠伸を零した。
「女性なのですから少しは隠したらどうですか?」
「はひ?」
「欠伸です。 はしたないですよ。」
「あ〜、それよく言われる。」
「言われる、じゃありませんよ。 言われたら直すべきでしょう。 学習しない人ですねまったく貴女は…。」
そういやいつだったか、仁王にも同じ事を言われたなと、
柳生の声を右から左に聞き流しながらはぼんやりと思い出していた。
時が経つのは実に早い。
この間入学したと思ったら、今度はあっという間に卒業なんだ。
ここ数年間、短い間だったがよくしてくれた先輩達も、ここから旅立ちそれぞれ別々の新たな道を歩みだす。
これから先、また会える人もいるが、そうでない人もいる。
次は自分達の番。
来年なんて、すぐにくる。
自分達もいつか、近い未来、卒業してしまうんだ。
そう考えると、何だか胸の中にぽっかり穴が開いたような気分になった。
「そういえば、今日これから三年生の卒業祝いするんだよね? 私も参加していいの?」
「ええ、マネージャーなのですから当然でしょう。」
「でも私、全員の先輩知ってるわけじゃないし、知ってるのって一部だよ。 ほら、たまに遊びに来てくれた先輩しか私知らない。」
口を尖らせ柳生を見上げるに、柳生は笑って「大丈夫ですよ」だけ言って部室へと向かった。
残されたはこれからどうするべきか、足を伸ばして視線を落とした。
太陽が雲に隠れ、少し日が蔭る。
ザッとスニーカーとコンクリートの地面が擦れる音がしては弾かれたように顔を上げた。
「弦一…、」
「何をしている。 もうすぐ三年生が部室に集まってくるぞ。」
「……うん、そうだね。 でもあともうちょっと。」
「何があともうちょっとだ。 どうせ放っておけば三十分も一時間もここにいるつもりだろう。」
呆れたように溜め息を吐きながらも、真田はの隣に腰を下ろした。
はそれを横目で追いながら、また口を尖らせ俯く。
「寂しいよ…なんか。 ずっとこのままがいい。」
「そうもいかんだろう。 人は常に前だけを目指して前進せねばならんのだ。 いつまでも同じ場所に立ち止まってるわけにもいかん。」
「じゃあいつか、私が弦一の前からいなくなっても、弦一はそれを受け入れることが出来るんだ。」
眉間に皺を寄せ、はフイッと横を向く。
真田は少し目を見開いてそんなを眺めた。
しばらく真田から返事が返って来ないことを疑問に思ったが、恐る恐る視線を真田へと向ける。
「何ちゅう顔してんのよ、アンタ…」
「お前が変なことを言い出すからだろう。」
「変じゃないよ、いつか必ずそうなっちゃうものでしょ。」
じっと地面を見つめてそう言うの頭に手を置き、真田ははっきりとこう言った。
「お前と俺がただのクラスメートならそうなるかもしれん。
だが、俺達は部活仲間でもあり、幼馴染だろう。 そう簡単に切れる縁でもない。」
「……弦一、」
「それに、アイツらだって幼馴染でなくとも共に全国制覇を目指す仲間だ。 そんな容易い仲でもない。」
腕を組み、断言しきった真田の言葉に、は小さく頷いた。
きっと、今はただ不安なだけ。
変わってしまう環境に、少し心が乱れてしまっただけ。
はそっと目を閉じて、これでもかってくらい勢いをつけてベンチから飛び降りた。
「ささっ、部室行こうよ弦一! 飯だ飯! 豪華なお食事だー!!」
「馬鹿モン!! 三年生の門出を祝う為なんだから少しは控えんか!」
「うっさいなクソじじぃ。 アンタもこんな日くらい少しは怒鳴るの控えらんないの?」
「んなっ!」
「さっさと来ないと放ってくよー? 早く行かないとあのガム男に全部食われちゃうじゃん!」
ニシシと歯を見せて笑うにもう一言怒鳴ってやろうかと思ったが、
真田は喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
真田に立つ気がないと悟った瞬間、本当に物凄い勢いで走り出したの背中を見て、
真田はハラハラと舞い散る桜を見上げて少しだけ笑った。
「皮肉なものだな、時の流れというものは。」
この一言は、誰の耳に留まることなく静かに消え去った。
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2007.03.09 執筆
卒業シーズン! 私は卒業生だったYO☆