Warm Corner 101

 

 

 

 

 

、周りが騒がしいお年頃です。

 

 

 

 

 

「すんません、立海大附属中学校って何処かわかります?」

 

 

 

振り返れば、美形。

 

 

 

「立海ですか?」

「そう、ちょっと道がわからんから教えてくれたら嬉しいんですけど。」

「ああ、迷子か。」

「…そうなんやけどそう言われたら何や、めっちゃ恥ずかしいわぁ。」

 

 

 

美形は苦笑いを浮かべて「で、何処なん?」と私を見下ろした。

うーわーホントに美形だなぁ。

弦一とえらい違いだ。

ていうかこの人…。

 

 

 

「関西人?」

 

 

 

つい口が滑って疑問を口にしちゃうと、美形は目をぱちくりさせた後、ニッコリ笑った。

 

 

 

「今春休みやから遊びがてらにこっち来てんねん。 今日は自由行動やから俺は王者の見学に来たっちゅーわけや。」

「王者の見学? 神奈川に来てわざわざ学校見学するの?」

 

 

 

怪しい。

この男、実に怪しい。

ヤバイな。

買い出し頼まれたから街に出てみたはいいけど、さっさと戻って来いって念おされてるしな。

余計な物は買うなとも言われてるが、まあそれはいいとして。

どうやってこの怪しい兄ちゃんから逃げ出そうか。

 

 

 

「学校見学っちゅーか、テニス部の見学したいねん。 一緒に来た他の奴らは東京行ったりしてんねんで。

でも俺はテニスが好きやから見学に来ただけや。」

「テニス部? 立海の?」

「俺、大阪でテニス部部長してんねん。 そやから早よ教えてくれへん?」

 

 

 

何!?

てことは他校のスパイか!

これはテニス部マネージャーとして未然に事態を防がなければ!

 

 

 

「あー…テニス部は…この春を持ちまして廃部になりました。」

「嘘やろそれ。 何や自分もうちょいマシなごまかし方できんのかいな。

教える気ないんやったらええわ。 嘘教えられても困るしな。 ほな、引き止めてスマンかった。」

「あーちょいちょいちょいちょい! 待った!」

「…何やねんなもー。」

 

 

 

立ち去ろうとした美形の腕を掴んで慌てて呼び止めると、美形は足を止めて面倒臭そうに振り返った。

 

 

 

「私、テニス部のマネージャー! だからアンタを行かせるわけにはいかないわ!」

「ほんまなん、それ。 何やすごい偶然やん。」

「ホントだもん! 今は買い出し中で街に出て来ただけだもん! 見るがいいわこの買い出しリストを!」

「ほお、確かにテニス部らしい内容やなぁ…この“春の新発売のお菓子”を抜けば。 何やこれ、むっちゃ書き足しとるやん。」

 

 

 

むむうっ!

それは弦一からリストを貰った後に丸井君が書き足したやつ…!

最後にスーパー寄って余ったお金で適当に好きなお菓子買って帰って

丸井君に全責任押し付けようと消さずに残しておいてやったんだ。

 

 

 

「とにかく! そういうワケだからアンタをテニス部見学させるわけにはいかないのよ!

私に声をかけたが運の尽きだったわね!」

「ほんま、運ええんか悪いんかわからんなぁ。 しもたわ、ほんま。」

「おとなしく家に帰るがいいわ。 諦めなさいな。」

 

 

 

勝ち誇ったように手であっちいけポーズをすると、美形は私をじっと見つめた後、何か思い付いたようにニッと笑った。

 

 

 

「ほな買い出しついてこ。 俺めっちゃ暇やねん。」

くんな。 暇なら筋トレでもしてろ。」

「そやから今日はテニス部偵察するんが俺の予定やったんや。 それをアカン言われたらどないせぇ言うねん。」

「だから筋トレでも…」

「阿呆ぬかせ、どこでやんねん。 せやから自称マネージャーさんとやらと買い物もええかなぁってな。」

「どうやったらそんな思考回路にたどり着くのか甚だ疑問だけど敢えて突っ込まないから。

東と西じゃどうやらメンタル面が違うみたいだしね。」

「何やねんツッコンでぇやノリ悪いわぁ。 これやから東の人間は冷たいっちゅーねん。」

「ああ?」

 

 

 

んだコイツ。

丸井君より失礼な奴だな。

ちょっと一発シメとくか。

とりあえず売られた喧嘩は買おうと袖をめくり上げたその時、

 

 

 

「何や、携帯鳴ってんで。」

 

 

 

しまったぁぁぁああああああ!

 

 

 

「はい! もしもー!

「うるさいわこの老け面ぁああああああああ!」

 

 

 

耳壊す気か毎回毎回!

携帯から漏れる弦一の声が美形にも聞こえたのか、声を押し殺して笑っていた。

 

 

 

『貴様!今何時だと思っとる!』

「十二時くらい?」

『たわけ! あれほど早く帰って来いと言ったのに何時間ほっつき歩いとるつもりだ!

お前が出て行って三時間も経っとるわ!』

「いやー途中で迷子拾っちゃってさ。 今もその子と愛の逃避行中。」

 

 

 

それって俺かい。なんてツッコミが横手から入る。

嘘はついてないぞ、私。

でも本当は実のところ、行き道で超かわいい猫がこっち見てたから我慢しきれなくなって思わず遊んじゃったんだもん。

最後は尻尾踏んだら機嫌損ねて威嚇した後逃げてったけど。

だから買い出しもまだだったり。

 

 

 

『お前に買い出しを頼んだのが間違いだった。 まったく、買い物もろくにできんのかお前は…。』

「盛大な溜め息だね。 大丈夫? 老けるよ?」

『誰のせいと思っとるんだ! もういい!

とりあえず今日の部活終了までに全部買って帰って来い、わかったな! 二度とお前に買い出しは頼まん!』

「うぇーい。」

何だそのやる気のなさすぎる返事は! いいか、絶対無駄な物は、というよりリストにない物は買ってくるな!』

 

 

 

ブツッと電話が切れて嵐が去った。

あー耳がぐわぁんぐわぁんする。

何であんなに無駄な物買うなって何度も念を押すんだアイツは。

そんなに私を信用してないか。

 

 

 

「えらい怒られてたなぁ。 やんちゃやな、ちゃんは。」

「あ、君まだいたの?」

「…うっわそれキッツ。」

「つーか名前。 名乗ってないのに何故わかる。 さてはエスパーか!」

「ちゃうわ。 さっきの電話の相手が叫んどったんが勝手に聞こえただけや。」

 

 

 

あの老け面め!

 

 

 

「私の名前を知ったからにはアンタも名乗りなさいよ! フェアでいこうじゃない!」

「別にええけど…。 俺は白石言うねん。」

「…白石?」

「そ、下の名前は蔵ノ介な。 去年の全国大会は立海と当たってんで、うちは。 ま、ストレートで負けてしもたけどなぁ。」

 

 

 

そう言って笑う白石蔵ノ介と名乗った美形は「俺は試合出てへんからまぁええねんけど」

と言いながら包帯を巻いた手で髪を掻き上げた。

そうか、だから偵察に来たんだな。

だからって偵察されたくらいで負ける立海でもないけれど。

 

 

 

「なぁ、神奈川案内してぇやちゃん。」

「君は話聞いてたんでしょ。 買い出しだよ買い出し! 部活終了までに帰らなきゃ今度こそ殺される!」

「ハハハハハ。」

「笑い事じゃねぇよ!」

 

 

 

ええツッコミやなぁなどと言いながらヨシヨシ頭を撫でてくるので思いっきり払いのけてやった。

何だコイツ!

掴み所がわかんねぇ!

さすが笑いの本場だ。

くっそー髪がめちゃくちゃになっちゃったじゃん。

 

 

 

「自分おもろいなー。 …何や、褒めてんねんから睨まんでもええやん。」

「髪が…、珍しく朝からセットしたのに…。」

「あーわかったわかった。 ちゃんと直したるからそんな顔で見んとってぇや。 何やねん、むっちゃ罪悪感感じるやんか。」

「これぞ限定技、必殺泣き落とし。 効果は良心を持ち合わせている人にだけ有効。」

「まんまやん。 てゆうか自分で言うなや。」

 

 

 

そう言いながら苦笑いを浮かべ、私の髪をちょこちょこ弄る。

せっかく今日の朝、やばいくらい寝癖が逆立ってたから整えるの面倒臭くなって

朝シャンして髪を梳かしながらドライヤーで乾かしたっていうのに。

何て男だ、白石蔵ノ介。

 

 

 

「?、どうしたの?」

 

 

 

ふと、手の動きが止まって不思議に思った私は振り返る。

白石君はすぐに笑って「何でもない」っつって再び私の髪をぱっぱと指で梳かした。

よし、元に戻ったみたいだ、よかった。

 

 

 

「あー腹減ってきたな。 腹ごしらえして帰ろかな。」

「あれ、買出しにはついてこないの?」

「ん、もう今日は立派な収穫あったしなぁ。 それでええかな思って。 帰る場所は東京のホテルやし。」

「ふ〜ん。 で、一人でご飯食べて帰るの? 寂しい人間だね。」

「やかましいわ。 何? そやったら自分、マクドでもついてきてくれるんか?」

「奢ってくれるなら喜んで行きたい。」

「……アホ、俺からしたら嬉しいけど、さっきの電話の相手に怒られんで。 早よ買い物済まして帰りなさい。」

 

 

 

白石君は喉を鳴らして笑いながら、「俺かて部長やからな、少しは相手の気持ちわかんねんで。」

と言ってまた私の頭をよしよしと撫でてきた。

テメッ学習しねえ奴だなホントによ!

 

 

 

「そない怒らんとってぇや。 可愛い顔が台無しやで。」

「嫌がってることするからじゃんか! バカ!」

「そやかてちゃんの髪ええ匂いすんねんもん。 口悪いけど女の子らしいやん。」

 

 

 

な?と言いながら首を傾げる白石君。

ちょっとちょっと、今の私絶対顔赤い!

至近距離でこんな美形にそんなこと言われたら誰だってメロメロキュン☆に決まってるじゃない!

ごめんなさい幸村君!

貴方の私は今、他の男に心を揺さぶられているところです!

 

 

 

「じゃあまたいつか大会で会おうな、ちゃん。」

「え、あ、うん…。」

「勝ち進んどいでや。 俺らも負けへんで。」

「立海だって、負けないもん! 今年も全国制覇するんだから!」

「ハハハハハ、ええ心意気や。 ちょい距離あるけど、お互い頑張ろな。」

 

 

 

ニッコリ笑って白石君は手を振って

 

 

 

「あ、やっぱそれまで会われへんのって寂しいから番号交換しとこ。」

 

 

 

帰ると思いきや、再び私の元へと戻って来てポケットから出した携帯を弄り始めた。

ちょっと待て。

誰が携帯番号教えるっつった!

 

 

 

「毎日メールするわ。 も無視せんとちゃんと返してな。」

「毎日してくんな! 迷惑だ!」

「照れんでええって。 さっきちょっとトキめいとったくせに。」

「ギャァーアンタなんか嫌いだ! 何かすっごくムカつく!」

「そりゃおおきに。」

 

 

 

私が真っ赤になった両頬を押さえて喚いているうちに、

白石君は赤外線で私の携帯に自分の番号をし終え、自分の携帯にも私の番号を登録し終えた後、

ニッコニコの笑顔を私に向けて私の携帯を差し出した。

渋々不本意ながらその携帯を受け取る。

 

 

 

「ほな俺は飯食ってくるわ。 ちゃんと買い物しといでやぁ。」

「アンタに言われなくったってちゃんとします!」

「余計な物買ったらあかんで。 寄り道せんと真っ直ぐ帰りや。」

「だからわかってるってば! さっさと飯でも何でも食って来い!」

 

 

 

なんでみんな私を信用してくれない!

余計な物なんて買わないわよ!

 

 

白石君は今度こそ振っていた手をポケットにしまって何処かへ行ってしまった。

………はあ。

何か第二の嵐が去って行った気分だ。

関西魂恐るべし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴様! あれほど無駄な物は買ってくるなと言っておいたにも関わらずこれだけの菓子を買ってきよって!」

「だってちゃんとリストに載ってました。 無駄な物ではありませーん。」

「……ふむ、これは丸井の字だな。」

「なっ、ち、違ぇよ! 俺は無実だっつーの!」

 

 

 

買出しを終えて帰ってくると、沸点をとうに通り過ぎた弦一が袋の中を覗きながら叫ぶ。

用意しておいた言い訳をさらりと口にすると、

マスターが買出しリストの紙を見ながらフッと笑って少々顔色が悪い丸井君を横目で見ていた。

 

 

 

あーやっぱ立海(ここ)はいつでも嵐だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2007.03.22 執筆

マクドとマック、私はマクド派。