Warm Corner 101
、自分でもよくわからんお年頃です。
「ねえ、さんお願いだよー頼むよー!」
「そうは言われても、無理なものは無理です。」
「だってさんしかもういないんだって! 私達を助けると思ってお願い!」
「ごめんだけど、そのお願いは聞けないな。」
「……さん、」
残念そうな表情を浮かべるクラスメートに背を向け、教室から出て行く。
零れるのは溜め息。
一体今日で何日目だろうか。
彼女達にこのようなお願いをされ続けてから結構経っている気がするけど一度も首を縦に振ったことはない。
だって、決めたことだから。
あの日から、私はもう二度と ―――
「あ、いたいた! 捜してたのになっかなか見つかんなくってさ、お前今までどこいたんだっつーの。」
「普通に教室にいましたけど。」
「んだよ教室にいたのかよ。 てっきりお前のことだからトイレとか屋上とか部室かと思ったのに。」
「何でよ、教室にいて何が悪いか。 で、丸井君、何の用?」
「あーそうそう。 今度の試合のことで真田が昼休み空き教室借りたから集合しろって。」
「えーめんど! ……どこで?」
「3階の階段横の教室。 昼飯持って来てそこで食えってよ。 遅れんなよ。」
「はいよ。」
丸井君は今から購買に行くらしく、慌てた様子で私のもとを去って行った。
私の伝言よりそんなに食い気が大事か。
……まあいいけど。
「ー、私置いて何処行くつもり〜?」
「別に。 それよりも小百合とずっと行動共にしなきゃいけないって誰が決めたの?」
「アンタそれ友達に言う台詞か! アンタがさっき一緒に購買行こうって言ってきたから私はそのつもりだったのに!」
「あー言ったっけか?」
「ふざけんなよ! がクラスの子に声かけられてたから終わるの待ってたのに、アンタさっさと教室出て行っちゃうし…。」
「何それ、小百合の話聞いていると私なんかすっごい最低なことしてる人間みたいじゃない。」
「だからアンタは最低なことしてるんだよ!」
小百合が私の頭をパシィッと景気のいい音を鳴らして叩く。
まったく、すぐ手の出る子だこの子は。
暴力はいけないんだいけないんだ。
小百合に痛いと抗議しながら廊下を渡っていると、前方から仁王君と柳生君が歩いてきているのが見えた。
「おや、さんではないですか。」
「何じゃ、涙目ぜよ。」
「……気のせいだよ。 ただ頭が痛いだけ…。」
「頭痛ですか? 保健室にでも行かれたらどうですか?」
「いや、たぶん行ったら追い帰される。」
「くくっ、どうせまたくだらんことして叩かれでもしたんじゃろ。」
何 故 わ か る !
さてはエスパーか!!
「そうなんだよ、ったら酷いの! クラスの子の誘いはバッサリと断るわ、
私との約束ほっぽって教室出て行くわ、しまいには忘れてるわ……最低ね。」
「最低じゃの。」
「うっさいな。 イライラしてたんだからしょうがないでしょ。 私は悪ぅない。」
「いや、さんにも非はあるでしょう。 ちゃんと謝りたまえ。」
「えーい煩い煩いうるさーい! 私は悪くなーい!!」
いきなり叫びだした私に三人とも驚きのあまり目をぱちくりさせる。
私はそのまま三人を放ったままその場を飛び出し、全速力で廊下を走り抜けた。
途中擦れ違った生徒を何人か撥ねた気がするが立ち止まることはなかった。
あれ、さっき撥ねたのジャッカル君だった気がするな。
「はあ…」
「何をそんなに真っ青になって走ってくる必要がある。」
「!、柳君!」
もうすぐ休み時間も終わりだし、誰もいないと思ってやって来た屋上にまさかの意外な人物がそこにいた。
柳君が屋上で空を見上げているなんて、予想もしなかった。
「廊下は走るな、と弦一郎がよく叫んでいるが…報告しておこうか?」
「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいえ滅相もない! 結構です!」
「そうか、なら悪いことをしても謝らない、という小学生のような態度をとったことは?」
「う゛、何故それを…」
お前ら本当にエスパーか!?
「少し風に当たっていたら、お前が走ってここに来るまでに仁王から連絡があってな。」
「仁王、君から?」
「壊れかけのが屋上に向かってるから、どうにかしてやってくれ、と。 先ほどまで仁王と柳生もここにいたからな。」
「……何で私が屋上に来るってわかるのよアイツ。」
「馬鹿と煙は何たらって言うだろう?」
くそっ自分で言うのはまだいいが他の奴に言われるとどうしてこうもムカつくのだろうか。
顔をヒクつかせながら握り締めた拳を震わせていると、
柳君はフッと笑って私の頭をそっと優しく撫でた。
「何子ども扱いしてるのよ。 別にそんなんで機嫌なんて直らないわよ。」
「お前のような頑固娘がこれくらいで機嫌が直るなんて俺だって思ってない。」
「誰が頑固娘か。」
「お前しかいないだろう、。」
それでも柳君の手は私の頭の上から動いてはくれない。
一体何だってんだ。
それに私はアンタの娘じゃないやい。
唯でさえ弦一のような親父らしからぬ親父がいるってのに。
「お前も、どうしようもない奴だな。」
「……うん。」
「赤也も手がかかるが、お前も十分手が掛かる。 どうにかならんのか。」
「……今はまだ、無理だね。」
チャイムが鳴る。
柳君は何も言わずにドアに向かって歩き出し、ドアの前で一度こちらに振り返った。
「、逃げてばかりじゃ、一生乗り越えることなんてできんぞ。」
ちゃんと授業出ろよと言われ、私は頷きながらも柳君が出て行った屋上から一歩も動く気にはなれなかった。
―― 逃げてばかりじゃ、一生乗り越えることなんて…
………わかってるっつの。
わかってるけど、私にはまだ無理だ。
「どっこいしょ。」
給水タンクの上へとのぼる。
次英語だしサボろサボろ。
こんな気が滅入ってる時につまらん授業なんぞ聞いてたらよけい気が滅入るってもんだ。
「お、パンツはレースか。 なかなか女の子らしいの穿いてんじゃん。」
「!?、ま、ままままままっ」
丸井貴様!!!
「な、何でアンタここに…!」
「あー? 俺次自習。」
「嘘付け! しれっとさらっと嘘付くな! アンタのクラス次科学じゃん! あの耳毛ゴリラ先生は今日も健在だったわよ!」
「マジで? つか何で俺の次の授業知ってんだっつの。 やめろよストーカー。」
「誰がアンタのストーカーか!」
どっこいしょ、と私と同じ掛け声を零して丸井君が給水タンクの上へとのぼってくる。
隣に座り「ん、」と言って私に紙パックのイチゴミルクを差し出して自分の分のフルーツ牛乳を取り出した。
「何? 飲まねぇの? 飲まねんだったら返せよ。 俺が飲む。」
「え、や…それは無理。 つか、何で…」
困惑する私を他所に、ストローを差して丸井君は喉の渇きを潤すようにフルーツ牛乳を飲み始める。
「購買行ってサボりのお供にって買ってきたんだけど、お前もサボりなら口寂しいだろぃ。 やるよ。」
「いつもサボる時こうなの?」
「前もってサボる気満々ならな。 やっぱ菓子パンとかあった方が優雅に時間を過ごせるだろぃ。」
「……まあそうだけど。」
腑に落ちないって顔をしながら私もストローを取り出して紙パックに差す。
イチゴの香りがほわっと香ってきてちょっとだけ鼻がぴくってした。
「で、何かあったんか?」
「え? 何が…」
「何がって、なーんかお前さっき会った時から元気ないじゃん。 気持ち悪い。」
「潰されたいか、丸井。」
「ジュースの恩、忘れたんか。」
「……まあこれでチャラにしてやんよ。」
ジューっとストローが鳴る。
二人して何してんだろって思いながら空を見上げた。
丸井君は袋をカサカサ鳴らしながら次に食す菓子パンを選んでいる。
どうやら取り出したのはチョコちょこっとパン(¥150)だった。
「ま、元気出せ。」
「元気だよ。」
「ならずっと眉間に皺寄せたりすんな。」
「弦一のが移ったんだよ。」
「そりゃお気の毒だな。」
「丸井君もそのうちこうなるんだよ。」
「何か真田菌みたいになってるじゃんか。 おかしいだろぃソレ。」
はんぐっとチョコパンに齧り付く丸井君。
風に乗って甘ったるいチョコの香りが鼻を擽った。
やべ、腹減ってきた。
「ねえ丸井君そのチョコパ「やんねぇ。」
「ですよねー。」
貴方様が分け与えてくれるはずがないですよねー。
一瞬でも希望を抱いた私の負けです。
「もうすぐ春休みだなー。」
「ですね。 それ明けたら三年生だよ、私達。」
「やべ、超ミラクルスーパールーキーとか入ってきたらどうしよ俺。」
「漫画の見すぎだよアンタ。」
「いや、わっかんねぇって。 世の中広いからなー。」
「狭いよ、案外。」
「お前俺の意見悉く否定していくのやめてくんね?」
「おっとそりゃすまねぇ。 つい口がウッカリ。」
隣に座る丸井君から残念な視線がひしひしと向けられてくる。
絶対に振り向いてやるもんか。
意地でも前を向き続けてやる。
「何かあったら、いつでも言ってもいいからな。」
「あい?」
「俺が無理だったら…柳生でも、ジャッカルでも…幸村君でもいいし。」
「………丸井君?」
チョコパンを食い終わった丸井君が次なる菓子パン、イチゴジャムコロネ(¥120)を袋から取り出す。
「そんな顔されるくらいなら、面倒だけど相談くらいなら乗ってやるってこと。 アイツらだってたぶん、そう言うだろうし。」
「……ありがと。」
「あ、でも赤也はナシな。 アイツは絶対NG。」
「何でよ。 別にしないけど…。」
「アイツは個人的にダメ、無理。」
「アンタそれでも先輩か。」
今度はイチゴジャムの甘酸っぱい匂いが漂う中、二人してちょっとだけ笑った。
ま、心配してくれるのは有り難いことだよね。
丸井君も、いいとこあるじゃん。
「ねえ丸井君。」
「ん?」
「そのイチゴジャムパ「だからやんねぇって。」
「ですよねー。」
グルグルキュ〜っという私の腹の音が虚しく響いた、お昼間近の立海の屋上。
気づかれないようにもう少しだけ笑って、いつの間にか消えていた眉間の皺に気が付いた。
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2007.03.31 執筆
三月おーわりっと。 ヒロインの事は徐々に解明していきます。