Warm Corner 101

 

 

 

 

 

、お節介なお年頃です。

 

 

 

 

 

「好きです、付き合ってください!」

 

 

 

おやおや、こんなところで告白ですか。

なんて思いながらも野次馬精神が発揮して体は自然と声がした方向へと向かう。

自分は関係ないにせよ内心わくわくドキドキな私は物音立てずにそっと様子を窺った。

 

 

 

「……まあ、別にいいけど。」

 

 

 

別にいいけど?

ってことはカップル誕生?

 

女子生徒はぱあっと顔を赤らめ、嬉しそうに微笑む。

あらら、可愛らしい。

 

 

 

「えっと、じゃあ…携帯番号とアドレス交換してもらっていいですか?」

「ん、オーケー。 赤外線でいいよな。 受ける?」

「あ、はい!」

 

 

 

慌ててポケットから携帯電話を取り出す女子生徒。

ここからじゃ死角になって男子生徒の姿は見えないけど、たぶん彼も取り出しただろう。

少しの沈黙の後、携帯電話を閉じる音が二回鳴って再び声が聞こえる。

 

 

 

「んじゃ、俺部活行くからシクヨロ。」

 

 

 

ザッと足音がこちらに近付いてくる。

うわお、逃げなきゃ。

 

慌ててどこか物陰に隠れようとあたふたしていたら、

思っていたよりも早く足音の犯人は目を真ん丸く見開いて私の目の前に現れた。

 

 

 

「…って丸井君じゃないですか。 ムダに焦ったじゃん。」

「…………、」

 

 

 

何か知らんが丸井君は無言のまま私の爪先から頭の天辺まで這うように見てくる。

そして数回目を瞬いた後、ちょっとだけ眉をぴくりと動かして口を開いた。

 

 

 

「覗き見かよ。 趣味わっる。」

「いいじゃん減るもんじゃないし! ていうかすごいね、彼女ゲットだね!」

「まあなー俺モテるしー。 へへっ、羨ましいだろぃ?」

 

 

 

うぜぇ。

何調子乗ってんだコイツ。

ちったぁ否定しろや。

しかしまあここは平常心で……

 

 

 

「あの子見ない顔だね。 年下?」

「たぶん一年だろぃ。 それよりさーお前今ガムか何か持ってねぇ?」

「黄金糖なら持ってるよ。 いる?」

「……まあそれでいいや。 ちょーだい。」

 

 

 

妥協ですかそうですか。

私の必需品の黄金糖だぞ。

もうちょっと有り難くいただいてくれないかな。

 

ポッケに入れておいた黄金糖を一粒丸井君に手渡し、私も一つ口に含む。

うーんあまーい。

 

 

 

「ん、携帯鳴ってるよ。 さっきの子からじゃない?」

「あーかもなー。」

「ねねっ、名前何て言うの?」

「さあ。 どうでもいいだろぃ。」

「何よ、ケチ。 教えてくれたっていいじゃんか。」

 

 

 

頬を膨らませてちょっと可愛らしく拗ねてみたけど丸井君は全くの素無視で部室の中へと入って行く。

 

あーあ、ほんと素っ気無い男だ。

なんでぇ、つまんねぇつまんねぇ。

せっかくからかってやろうと思ったのに。

 

 

 

先輩、眉間に副部長と同じくらい皺寄ってますよ。 それに何か怖いッス。」

「…切原くーん、丸井君が彼女の名前教えてくれませーん。 ちゃん悲しいです。」

「マジで!? ブン太サン彼女できたんスか!? 久しぶりじゃないッスか!」

ッこンの口軽女!!!! 何でよりにもよって赤也に言うんだよ!!」

 

 

 

ひぃっ何でそんなに怒るんだよー!!

言っちゃダメだった!? 言っちゃダメだったの!?

そんなの聞いてなかったんだから仕方ないじゃんかー!!

 

丸井君は不機嫌に私を睨みつけた後、背を向けて着替え始めた。

残された私と切原君はただ茫然と無言で見詰め合って目を瞬かせ、丸井君に聞こえないようひそひそ声で会話する。

 

 

 

「何かブン太サン機嫌悪いッスね。 いつもは彼女出来たらテンション上げ上げなのに。 相手の女子可愛かったッスか?」

「うん、可愛かった。 目がおっきくて肩までのウェブがかった髪の子だったよ。 一年生だって。 切原君知らないの?」

「目がおっきくて肩までのウェブがかった髪〜? さあ、知らね。 それにしても、ブン太サンも済みに置けないッスねー。」

「うんうんまったくだよ。 私告白現場なんて初めて見たからちょっとワクワクした!」

「何でアンタがワクワクする必要あるんスか…。 つか、覗き見してたんスね。」

「偶然だよ。 丸井君だなんて思わなかったんだもん。」

「ブン太サンであろうとなかろうと覗き見は覗き見ッスよ。 趣味わっるー。」

 

 

 

んだとコラ!!!

お前らだってするだろ絶対!!

人のこと趣味悪い悪い言いやがって胸糞悪いわ!!

 

何だか鋭い視線を感じてハッとして前を向くと、着替え終わった丸井君がじっと私たちを睨みつけていた。

ひぃっマジおっかないよ丸井君!

 

 

 

先輩、めっちゃ睨んでますよ。 アンタ声でかいから聞こえてたんスかね。」

「ちょっと私のせいにしないでよ! 私もアンタもどっこいどっこいでしょ!」

「いーや、だってブン太サン先輩睨んでますもん。 俺しーらねっと。」

「ちょっ、…………………マジ?

 

 

 

切原君が逃げるように部室から出て行く。

くそっ覚えてろよ切原赤也!!!!

 

しかし、よーく目線を辿ってみると確かに私を突き刺さるように睨み付けている。

やっぱ口軽かったから!? 口軽かった私をそんなに恨んでるってことなの!?

内緒のお付き合いをしようとしてたなんて知らなかったんだからしょうがないじゃないのよー!

勘弁してよー怖いよー!!

 

 

 

(あれ、でも丸井君とあの子、内緒でお付き合いしましょうって約束してたっけか?)

 

 

 

ばっちりと目がかち合って何となく逸らす事を躊躇っていたら

ハッと顔色を変えた丸井君が何にもなかったように罰の悪い表情を浮かべて部室を出て行った。

…………いったい何だったんだ。

変な脂汗掻いちゃったじゃん。 バカちん。

 

 

 

 

 

その後の部活は丸井君と会話するどころか目も合わなかった。

いつもならいがみ合いとかしてたのにな。

何かちょっと寂しいじゃんか。

 

次の日の朝練でも「おはよ。」と挨拶はしたけれど丸井君からは「はよ。」の一言だけでそれ以外何の会話もなかった。

んだよ、意味わからん男だなマジで。

 

 

 

「で、何でアンタがイライラしてんのよ。」

「だって何か歯がゆいんだもん! 何がいったいどうしちゃったって言うの!? 私が悪いの!?

「うっさい。 ちょっと声のトーン落としなさいよ。 声でかいのよアンタ。」

「……私が悪かったのかな。 謝った方がいいのかな? ねえ、小百合ちゃあんどうしたらいいと思う?」

 

 

 

半泣き状態の私は縋るように、菓子パンを頬張る小百合の両手を掴んだ。

あ、コイツ今すっげぇ嫌そうな顔した。

そんなに私が嫌いか!!!!

 

 

 

「別に…が悪いってわけでもないと思うけどな、私は。」

「ほんと!?」

だから声でかいっつってるでしょーがウッサイのよいちいち!!

 ……コホン、えっと、まあ普通はね、恥ずかしいから黙っておこうってのが多いの中学生のそういった類の話は。」

「ふんふん、で?」

 

 

 

小百合は一度間をあけた後、紙パック製のコーヒー牛乳のストローを咥えながら言った。

 

 

 

「でもアンタが言うには覗き見がバレた直後の丸井君は普通だった。 慌てた様子も無ければ黙っててとも言われてないんでしょ?」

「うん、むしろ俺モテるからってウザイ発言してたよ。

「はいはい、で、どの辺から態度が変わったの?」

「部室で切原君に喋ってから、かな? 口軽女って怒鳴られちゃったよ、へへ。」

「傷ついたのね、珍しくも。 顔が笑えてないわよ。」

「…………、」

 

 

 

よしよしって小百合が私の頭を撫でる。

せっかく明るく振舞ったのにどうしてスルーしてくれなかったかな。 バカバカ。

 

だって、だって…

まさかあんなに丸井君が怒るなんてこれっぽっちも思わなかったんだもん!

怖いっていうかビックリしたっていうか……

 

ていうかせっかく黄金糖あげたのに!!! 返せ!!!!

 

 

 

「アンタ今一瞬丸井君に対してキレたでしょ。」

「……滅相も無い。 私は落ち込んでる身でございます。」

「そうね。 でもまあ、案外丸井君が不機嫌なのって、が切原君に喋ったからじゃないかもよ。」

「え? なんで?」

 

 

 

小百合は「さあねぇ」なんて曖昧に言葉を濁して紙パックを潰した。

んで大事なところ言わないんだよコイツ。使えないな。

 

 

 

そんなこんなで昼休みも風のように過ぎて、気がつけばまた部活の時が近付いていた。

あー憂鬱だよ。

ちょっとトラウマなんだけど。

今日はあの道を通らずに別館から行って部室へ近道しよう。

いつもはできるだけ部活遅れていけるように遠回りしてたけど…。

 

浮かない顔して廊下を歩いていると前方に詐欺師と紳士を発見した。

よーし全力疾走してあの背中に突進してやろう、なんて考えていたらパシッと頭を叩かれた。

意外と痛かったから思わず誰だマジ殺してやる!!!と勢いよく振り返ればそこには

 

 

 

「邪魔。」

 

 

 

…………………まさかの丸井様ではありませんか。

 

 

 

「廊下左右にふらついて歩くと周りの迷惑だろぃ。 しっかりしろよバーカ。」

「……ムカッ。」

「つーかお前さ、「丸井先輩!」

 

 

 

前方から小走りに駆けて来る昨日の女子生徒。

彼女に言葉を遮られて黙っちゃった丸井君の様子をちらりと窺ってみる。

 

………あれ?

 

 

 

(何でそんなに小難しい顔してんだよコイツ。)

 

 

 

「丸井先輩、今日部活終わるまで待っててもいいですか? 一緒に帰りましょうよ!」

「…ん、ああ。 そうだな。」

「やった! じゃあ美波、部活終わったら部室前で待ってますね! それまでギャラリーで丸井先輩のこと見てます!」

「オッケ、わかった。 そんじゃーまた部活後な。」

「はあい!」

 

 

 

嵐のように去って行った彼女(美波ちゃんって言うのかな?)の背中を眺めていたら

また隣に立っていた彼、丸井ブン太に頭をバシィッとしばかれた。

……張り倒すぞこんにゃろ。

 

 

 

「何よ、痛いな。 私の何がそんなに気に食わないか。 やはりアレか? 昨日の口軽が気に食わなかったわけか?」

「……別に。 全部だよ全部! お前の存在が気に食わねぇー!!

 

 

 

ちょ、そんな大声で叫ぶ必要があるか!!!!!

しかもここ廊下で!!

そんなに私の存在否定しなくたっていいじゃないの!!

ぶっころ!!!!

 

 

 

「あーあーだったら私も丸井君が気に入らないわ!! 何よ女の腐ったみたいにジメジメしやがって!! それでも男か!!」

「ああ? どこがジメジメしてんだよ普通だろぃ! お前の被害妄想だろうが!! この被害妄想女!!」

「被害妄想だあ? 私のどこが被害妄想よ!! 誰がどう見てもアンタ機嫌悪いでしょうが!!」

「悪くねぇよ!! 何で俺が機嫌悪くなんなきゃなんないんだよ!!」

「知らないわよ! それが私も知りたいんでしょ!! 理由もわからずプンプンされたってこっちが困るのよ!!」

「何だよプンプンって!!  ガキかよ!! してねぇっつってんだろぃ!!」

「いーやしてるわよ!! だったら切原君にでも聞い「やかましいわ貴様らここは廊下だろう!!!」

 

 

 

………邪魔すんなあ!!!

 

 

 

「弦一は首突っ込むなややこしい!!」

!! 喧嘩とは何事だ!! 丸井!! お前も今から部活だろう!!」

「うっせぇな真田には関係ねぇんだよ!! 先に行ってろ!!!」

「何!?」

「そーだそーだ弦一は邪魔だからさっさとコート行ってラケットでも振ってろ!!」

、貴様……!!!」

「つーか俺何も悪くねぇし! 怒るならコイツ怒れよな!!」

「はあ!? 何で私なのよ! 叩いてきたのも先にキレたのもアンタじゃない!!」

「だからそれはお前の存在がウザイからだろぃ!」

 

 

 

んな理不尽な言い訳があるかあああああああああああああああああ!!!

 

思わず丸井君をグーでぶん殴ろうとしたその時、

私の背後にいつの間にやらいた柳君がそっとその手を取って言った。

(たぶん弦一と一緒にいたんだろうけど。)

 

 

 

「やめておけ。 女が手を出す事はない。」

「柳君…、」

「抑えろ。 一時の高ぶった感情で行動を起こして後悔するのはお前だぞ、。」

「………、」

「深呼吸をしてみろ。」

「………、」

「深呼吸だ。」

「…スゥ……ハァ……」

 

 

 

よし、よく出来たな。と頭を撫でられる。

さっき一瞬柳君の目が開いた気がして心臓が飛び跳ねたけど、おかげで少し落ち着いた気がする。

あ、深呼吸のおかげね。

間違っても柳君の開眼の衝撃じゃないよ。

 

 

 

「丸井。」

「……んだよ、」

 

 

 

柳君が今度は丸井君の名を呼ぶ。

すると不機嫌に唇を尖らせた丸井君がちょっと躊躇いがちに返事を返し

 

 

 

バキッ

 

 

 

「………………、」

 

 

 

う、裏拳んんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!!!!!!!!???

 

 

 

「ちょ、柳君!? どうしちゃったの!? 丸井君飛んでっちゃったよ!?」

「弦一郎、部活に行くぞ。」

「…………ん、あ、ああ…」

 

 

 

ほら!!ほら!!

あまりの衝撃シーンにあの弦一も茫然としてるじゃないか!!

 

二三歩あるいた柳君が突然振り返ったと思ったら

私の額にパチンとデコピンをかまして言った。

 

 

 

「喧嘩両成敗だ。」

 

 

 

……いや、差がありすぎですよ。

丸井君、頬押さえてまだ立ち上がれてないですよ。

何が起こったの的な顔してますよ。

もしもし柳さん、何もなかったみたいに立ち去らないでくださいよ。

もしもーし。 もしもー…し。

 

 

 

 

 

残された私と丸井君はただ茫然と、去って行く柳君の背中を眺めてた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

2008.08.28 執筆

ちょっと時を遡って赤也の事を切原君って読んでた頃の話。

思ったより長かったので続きます 。

また制作ブログにいろいろ書いときますね。