Warm Corner 101
、騙されやすいお年頃です。
「あたし………好きなの、付き合って!」
デジャブッッッ!!!
これはいけない逃げなければ!
怖いくらい身体が危険を察知してる!
慌てて飛び込むように木の後ろに身を潜めると、一度深く深呼吸する。
しまった、また告白現場に遭遇してしまった。
私、すごい運の持ち主なのねきっと…。
「すまんけど、今はテニスでいっぱいいっぱいじゃ。」
あーあ、こんな事なら小百合と黒板で○×ゲームなんてしてないでさっさと部活行けばよかった…。
しかも何かこの声聞いた事あるし。
やだな、またキレられたらどうしよう。
丸井君の一件で結構トラウマなんだよね、私。
あんなとばっちりは本当にゴメンなんだからね、怖いんだからね。
「わ、私邪魔しないし…そんなに相手してもらわなくてもいいから…ただ仁王君の傍に居たいの!
私ね、私…本当に仁王君が好きなの……だからお願い、私を彼女にしてください!」
うん、そうかそうか、やはり相手は仁王氏だったか。
まあ声と話し方でモロわかりきってた事だけどね。
それにしても熱い告白劇だこと。 彼女すごいわ。
見ていてこっちが恥ずかしい。 照れちゃうよ。
(これはバレる前に逃げるしかないな…。)
「………はあ、困ったのう。」
ドキドキ。
何か自分のモテ加減に困ってる仁王君に見つからないよう足音立てずに立ち去ろうと試みる。
一歩前に足を踏み出して、それはもうビックリ。
「フギャァアッ!!!」
「ギャアッ!!!!!!!」
しまったまさかの猫ッッ!!!?
猫の尻尾踏むとか何てツイてないの私!
いや、告白現場に鉢合わせた時点でツイてなかったけどさ!
こりゃないよ! あんまりでしょ!
「あ、さん…、」
「……何しとんじゃ、お前さん。」
…………あーあ、見つかっちゃった。
最悪のパターンだ、これ。
こんなことならもっとマシな登場パターンがあったでしょうに。
なして猫の尻尾踏んで驚いて涙目になってるところを目撃されなきゃなんないのよ…恥さらしもいいところじゃん。
「ああ、そういうことか。」
「え?」
仁王君が何か閃いたように、急にニッコリ笑みを浮かべる。
そしてまだ心臓がバクバクして頭がパニクっている私に近付いてきた。
いや、マジすっげぇ嫌な予感。
何だろ、嫌だ。 すごく嫌だ。
嫌だこっちに来るなぁああああ!!!!!!!
「心配して様子見にきたんか、マイハニー。」
…………………まい、はにー?
まいはにぃ? まいはにー? マイハニィ? マイハニー?
…………………マイハニーだとぉぉぉおおおおおおおお!!!!??????
「サムッ寒いよ仁王君! どうした急に! いや、アンタ誰!!?」
「何照れとるんじゃ。 相変わらず可愛いのう。」
「ああ、柳生君!? いや、柳生君もこんな事言わない! じゃあやっぱり誰!?」
「さ、部活行こうぜよ。 遅れたらまた真田が可愛いに暴力振るうからの。 見てられん。」
「キャアア本気で鳥肌がぁぁあああああ!!」
固まる女子生徒とパニくる私。
そして一人マイワールドで突き進んでいく仁王君は笑顔で私の腰に手を回して部室へ向かおうとする。
一体何を食べたらこんな妄言が炸裂するんだ!?
気持ち悪すぎて鳥肌が戻ってくれないよう!
怖いよ弦一、助けて幸村君!
このままじゃ私凍死する!!!!
「そういう事なんで、悪いのう。 俺部活行くから。」
「ちょっ、仁王君!!」
ヒラヒラ手を振って、女子生徒がこの世の終わりのような表情で立ち去る姿を見送る。
……鬼だ…ここに鬼がいる…。
なんて酷い仕打ちなんだろう。
あの子が一体アンタに何をした…?
「ご、誤解したかもしれないじゃん! どうしてくれんの!?」
「助かったぜよ。 さんのおかげでこれからしばらく平和に過ごせる。」
「え、私のおかげ? ………ってそうじゃなくて! 何なの急に!」
「あーもう煩いのう。 黙れ。」
んだとお前何ちゅう物言いだコラ。
「ま、結果的にはうまく断れたんじゃ。 ありがとさん。」
「いや、ちっともうまく断れてないから。」
ブンブン首を左右に振れば仁王君が「首取れそうだからやめんしゃい。」と言って口を塞ぐように片手で私の両頬を掴んだ。
ほら、指食い込んでるから。
女の子にすることじゃないから、コレ。
ヤメろっヤメめるんだイタッ痛い!
痛いイタイイタイからその手放せっ!!!
「ほれ、あれじゃ。 これで俺に言い寄ってくる事もないじゃろ。 安心してテニスに集中できる。」
「らろいりるりりらるれろらられぃ!!(どうでもいいからその手を放せ!!)」
「ほいよ。」
「ぷはっ仁王貴様マジでいつかその尾っぽ引きちぎってやるからな覚えてろ!!」
「くくっ、気が向いたらな。」
気が向こうが向かまいが絶対に引きちぎってやる!!!
奇襲だ奇襲してやる!!!
「そういや昨日真田が次さんが遅刻したら外周30周走らせる言うとったぜよ。」
「ぬぁ〜にぃ〜!!!? まじッスかそれは早く言いたまえよ!!!」
「おう、マジじゃ。 ほれ、急がんと30周走らなならんぞー。」
「うぎゃあっ後一分もないじゃんバカバカこんなところで足止め食らったせいだ!!」
「いーや、教室で○×ゲームなんかしとるからじゃ。」
何 故 知 っ て い る !
やはり仁王君アンタはエスパーだったんだ。
いや、それよりもガチで急がねば。
さらりと話変えられた気がするけどこれはかなりピンチだ!
ヤバイです隊長! 部員でもないのに30周走らされるかもです!!!
どうして弦一はこうも体力のない私にそんな過酷な罰をお与えになるのですか?
きっと柳君の入れ知恵なんだろうな、くすん。
この時はそう、
幼馴染の容赦ない命令により、本当に三十周走らされることになって仁王君とのやり取りをすっかり忘れていた。
決して忘れてはいけなかったのに、綺麗さっぱり忘れてしまっていたんだ。
「ちょっと、さんこれマジなの!!!?」
次の日だった。
血相を変えて集まってくるクラスメートの姿を見て、私は昨日の自分を殴ってやりたいくらい後悔したこと。
くそっ夕飯後のプリンで浮かれている場合ではなかったっ……!
「仁王君と付き合ってるって話デマだよね!!!!?」
これまたこのクラスメートの声が私に負けないくらいでかい。
関係なかった他のクラスメートにまで被害が及ぶ及ぶ…。
きっと真っ青になった私の顔は引き攣ってピカソみたいになってるに違いない。
戻らなくなったらどうしようか本当に。
「そんなワケないよね!? だってさんだよ!?」
「おいコラちょい待て、今の最後の部分が何か聞き捨てならん。」
「だってさんだよ!?」
「何で二回も言うのよ! 失礼だよ!」
「はいはい、ちゃん落ち着いて。 まずは親友である私に話してごらんなさい。」
クラスメートの間を割って入ってきたのがこれまた面倒な小百合。
顔がすごく笑ってるけど、楽しそうだね。
「親友だったっけ?」
「そういうボケはいいからさっさとどういうことか説明しろって。 私に内緒で仁王氏とそういう仲になってたなんて…薄情者。」
「アンタに一番言われたくない言葉だね。 それに自分で言うけど……私と仁王君だよ?」
「まああり得ない組み合わせだよね。」
「うん、幸村君ならまだしも……私と仁王君だよ?」
「あり得ないわよね、幸村君の方がもっと。 納得できるのは真田君だけだよ。」
「何で私があんなオッサンとスキャンダルされなきゃならんのだ! 絶対嫌だ!!」
「……全力否定しないの。 幼馴染でしょうが。」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
ああもう、鳥肌立った…。
弦一と仲良く手を繋いで歩く姿なんて微笑ましくも何ともないわ。
誘拐犯と誘拐されてる可憐な女子中学生にしか見えんわな。
「……はあ、面倒事に巻き込まれちゃったなあ。 とりあえず私、仁王君に奇襲してくるよ。」
「奇襲しなくていいからちゃんと誤解解いて行きなさいよ。」
「だって〜いくら私が否定したってこうなったらキリがないじゃん。
仁王君が一言みんなに言ってくれた方が噂も回るの早いし。 みんなも信じるだろうし。」
「まあそうね。」
「そうと決まれば、じゃ!!」
「はいはい相変わらず行動早いわね。 怪我させちゃダメだよー……って聞いてないよね。」
教室を飛び出して向かう先は仁王雅治の居る場所。
しかし、勢いよく教室を出てきたはいいが、私は決定的なことを忘れていた。
仁王雅治は今いずこっ……!?
「ってグッドタイミングだ参謀いいところにいるじゃないか!」
ちょうど階段を上がってきていた柳君と出くわす。
やった! 実にナイスなタイミングだよ柳君!
情報豊富なデータマンの彼なら居場所くらい知ってるかも。
そんな淡い期待を抱いて思いっきり顔を輝かせて指を差す。
「……何だ、か。 廊下は走るなよ。」
「アンタは弦一か。 それよりもさ、仁王君どこにいるか知らない!?」
「何だ、さっそく愛でも育みに行くのか?」
「しばかれたいの?」
「冗談だ。」
フッと笑って柳君は「たぶん仁王は更衣室だろう」と言った。
そっか、確か仁王君のクラスはさっきまで体育だったっけ?
さすが柳君、みんなの時間割を把握しているだけあるね、尊敬するや。
「ありがとう行って来る!」
「ああ、ちゃんと前を見ろ。 こけるなよ。」
「りょーかいした!」
柳君に手を振って再び走り出した。
今度は走るなって言われなかったことに内心ホッとする。
男子更衣室に着くと、ちらほら着替え終わった男子生徒が更衣室から出てくる姿が見えた。
仁王君、まだだよね…。
「あ、」
銀髪の生徒が赤髪の生徒と共に更衣室から出てくる。
暑いのか、二人とも袖を捲くり上げ、カッターシャツの前を半分以上開けていて中の柄シャツが見えている。
銀髪の方はタオルで髪をわしゃわしゃと拭き、赤髪の方はゴムで後ろ髪を縛りながらこちらへ向かって歩いてくる。
間違いない、あのだらけ具合は仁王氏と丸井氏だ。
「たのもーーーーーー!!」
「うわっ、…んだよか。 お前はどこの武士だよ。」
「それは弦一だよ私は可憐な乙女だっ! てことで今は仁王氏をお借りするよ丸井君!!」
「は? っておい……すげ、仁王抱えてっちまったアイツ…。」
丸井君には悪いけど、とりあえず仁王君だけを連れて半分引きずる形であんまりひと気のない校舎へと直行する。
仁王君は何も言わずにただされるがままに大人しく私について来てくれた。
「強引じゃね、チャンは。」
「っ…はあっ……疲れた……!!」
「そりゃ当たり前。 まあとりあえず座りんしゃい。」
ぽんぽんと自分の隣を叩く仁王君。
ちなみにここは校舎の端っこにある空き教室。
ちょっと埃っぽいけど一応誰かかれか使っているからか、座れないほど汚いってこともなかったので素直に仁王君の隣に腰を下ろす。
「ところで仁王君! アンタのせいで最高に不名誉な噂が広まったじゃん! どうしてくれんの!?」
「あーあれね、放っておけばええんよ。」
「よくないよ! 仁王君は何もなくても私の身が危険なんだって!」
「つってものぅ…このままにしておいてくれたら俺テニスに集中できて楽なんじゃけど。」
だからそれは全部アンタの都合だろうが!!
「ふざけんな今すぐ校内放送で弁解してきて潰すわよ!!」
「おーこわっ、口が悪いぜよさん。」
「誰のせいよ!!」
「さあ、誰じゃろね。」
「アンタだよアンタ仁王雅治!!!」
「おお、俺か。」
おお、俺か……
じゃねえよボケナス!!!
「とにかく、本当どうにかしてよ勘弁してください! もしも幸村君の耳にそんな噂が入ったらっ……キャアアア!!」
「はいはい、想像して絶叫しなさんな。 うるさい口塞ぐぞ。」
「…いちいち嫌な言い方しないでお願いだから。」
もうダメ、私ダメ。
この人マジで超苦手…。
何だか眩暈してきたんだけど…。
力尽きて溜め息を吐く私を見て、仁王君は喉を鳴らして可笑しそうに笑った。
「ま、あれじゃ。 俺がテニスに集中するようになったら、幸村もさぞかし喜ぶんじゃろうな。」
「え?」
「ほれ、考えてみろ。 部員が他の者に邪魔されずテニスに打ち込んどったら部長である幸村としては嬉しいじゃろ?」
「……そっか、」
「もしかすると幸村もお前さんに感謝するかもしれんしな。」
『ありがとう、ちゃん(ビジョンでの呼び名)キミのおかげで仁王が部活に集中できるようになったよ。』
なんて素敵スマイルで言われちゃったり?
そんでそんで挙句の果てには
『ちゃんは部員のことまで考えてくれてたんだね、俺、認めなおしちゃったな。』
なんて事を手を握りながら言ってくれたり!?
『できるマネージャーってちゃんみたいな子の事を言うんだね。』
とか頬を染めながら俯き加減に言われちゃったらどうしよおおおおお!!!!!
「さん、」
「……っは、ハイ何でしょ!!!?」
「お帰り。 顔緩みすぎてて気持ち悪かったぜよ。」
「ただいま。 うるさい口縫い付けるわよ。」
いけないいけない。
今私の目の前にいるのはこの憎たらしい詐欺師だったわ。
「満更でもないようだし、しばらくは俺の彼女てことでいいな?」
「………うっ、まあ…まあ…」
「幸村に褒められたいか?」
「わかったわよいいよいいですわかりました!!!」
「よし、良い子じゃ。」
良い子良い子言いながら私の頭を撫でる。
仁王君はさぞかし嬉しそうで、というより楽しそうで、ものすごく不本意だった。
でも、でも!!
幸村君のため、これも全て愛しの幸村君のためだから耐えるのよ!!
こうして、私は見事彼の口車に乗せられてしまったわけなのです。
「……で、のこのこ帰ってきたわけアンタ。」
「はい、帰ってまいりました。 …ッテェ!!」
はあーーーーーーーーーーーと長い溜め息を吐いた後、私の額に頭突きをかます小百合さん。
マジこいつ頭カチ割ってもいいッスか?
友達? え、何それ美味しいの?
「バカじゃないの。 バーカ。」
「バカはアンタよバカ。 私の頭が割れたらアンタどうしてくれるの? その頭くれるの?」
「私アンパンじゃないわよ。 顔取れないし。」
「そんな返しいらないよ。 とにかく慰謝料ふんだくってやる。」
ズキズキ痛む額をよしよしと撫でながら涙目で小百合を睨みつける。
さっきの時間あったことを報告しただけなのに、頭突きなんてあり得ない!
アーリーエーナーイ! 訴えてやるからな絶対に!
「いいように言い包められて何やってんだか…バーカ。」
「だからバカは小百「ーーーーーー!!」……なっ、何事だ!? 奇襲か!?」
バンッドカッベシャッ
と色んなモノがぶつかったり吹っ飛んだりする音と共に流星の如く現れたのは
「何だ、丸井君か。」
「何だよそのファイティングポーズは……ってそうじゃなくて!!!」
「騒がしいよ。」
「お前仁王と付き合ってんのとか嘘だよな!?」
ざわっ……
再び騒がしくなる教室内。
好奇の視線がいたる所から突き刺さる。
くそっまた大声でそんなことをっ……!!
「だってそういうことにしておいたら仁王君が女の子寄って来なくなってテニスに集中できるって…」
「はあ!? それでお前OKしたわけ!?」
「仁王君が集中できたら幸村君も喜ぶって…」
「バッカじゃねぇのお前!!」
んだとコノヤロウ。
二人して人のことバカバカ言いやがって。
バカッつった方がバカなんだバーカ。
あ、私もバカだ。
「んなこと幸村君が聞いたらむしろ怒るだろぃ…。」
………え?
「何故!?」
「だってお前…」
「部内恋愛禁止じゃん。」
「仁王雅治貴様ぁぁあああああぁぁああぁああああああぁぁぁあああぁああ!!!!!」
呆れ顔の丸井君を突き飛ばし、教室を飛び出す。
途中で人を何人も跳ねたが構っている暇はない。
コロス
殺さねば
直ちに仁王雅治を殺しに行かねばならんのだ!!!!
「仁王雅治覚悟ーーーーー!!」
野生の勘だろう。
仁王雅治の居場所なんてこれっぽっちも知らなかったくせにさっきの時間いた空き教室へ本能的に飛び込んで行ったら
女子生徒三人に囲まれた仁王雅治がさっきと同じ場所に座っていた。
よしっ、二度とその面を私の前にさらす事ができないように確実に仕留めてやる!
女子三人は振り返ってすごい剣幕の私に驚く。
そんな三人を掻き分けて中心にいる仁王雅治の胸倉を思いっきり掴んでやった。
「一発殴っていいよね?」
「くくっ、やっと気づいたんか。 遅かったのお。」
「やっぱりアンタわかってたんか!! タチ悪いな!!」
「普通気づくじゃろ。 チャンがバカなだけ。」
「やっぱり殴る! 一回殴っておかないと私の腹の虫が治まらない!!!」
その余裕綽々の顔面を今すぐぶっ潰してやる!!
が、私の怒りも虚しく
振り下ろそうとした拳を後ろで呆気に取られていた女子生徒三人が慌てて掴んで止めに入った。
「はなせっ! 殴らせて! はなしやがれ!!」
「さん落ち着いて! ちょっ力強っ!!」
「コイツ一回痛い目みないとわかんないのよ! お願いだから放してください!!」
「無理よ! 仁王君殴るなんてそんな無茶なっていうか仁王君と付き合ってんじゃなかったの!?」
「ギャアー思い出しても腸が煮えくり返るわっ!! 死ねっ仁王貴様一回死んで!!」
「すまんが、そのお願いは聞いてやれんな。」
三人がかりで羽交い絞めされている私を見上げて可笑しそうに笑う仁王雅治。
ていうか何でアンタはそんな高みの見物してんだよっっ!
本当の本当にどうやってでもコイツを張り倒さなくては気が治まらない!
くそっどうにかして…………はっ!
「ふははは足があるじゃないか!!」
「ふーん白。 ちゃんと男のツボついとるの。」
「パンツを見るなぁぁああああぁぁああああああ!!」
「……足上げて見せてきたのはそっちじゃろが。 そういうのを理不尽っちゅうんよ。」
「もう嫌! アンタ嫌い! 本当に嫌だー!!」
半泣き状態で目の前の仁王雅治を睨みつけ地団太を踏む。
そんな私を見て仁王雅治は楽しそうに笑いながら足を組みなおして
なおも私の両腕を羽交い絞めにしている三人の女子生徒に視線を向けた。
こらっ今アンタが向き合わなきゃいけない人間は私でしょうが!
「ま、これでわかってもらえた?」
「…え!?」
「こういうこと。 納得した?」
話をふられてキョトンとする周りの女子生徒達。
その前に交わされていた会話のやり取りに参加していないので突然の意味不明な仁王君の発言に私も自然と力が抜けて動きを止める。
…何? 何が納得した?
「こんな品のない女、俺はごめんじゃ。」
……こっちだってお前なんか願い下げじゃっ!!!
「じゃあやっぱり…噂は噂だったって、こと?」
「ま、昨日の子が俺の発言に誤解したんじゃろ。 てかただ単に俺がコイツからかってただけ。」
「…そ、そうなんだ。」
憐れんだ視線を左右の女子生徒から向けられる。
……なに? 何か用?
「そういうことで、俺は今テニスでいっぱいいっぱい。 だから他の噂しとる奴らにもそう言うとってくれん?」
「…う、うんわかった! 言っとくよ!」
「ありがとさん。 それじゃ、頼んだぜよ。」
「任せといて!」
ニッコリ笑った仁王君に表情をぱあっと輝かせて目をキラキラさせながら頷く三人の女子生徒。
仁王君に手を振って嬉しそうに軽い足取りでさっそく噂を訂正しに教室を飛び出して行く。
あんな貼り付けたような笑顔でよくもまああそこまでテンションが上がること…。
こんな腐った笑顔なんかより幸村君の笑顔の方が比べ物にならないほど素晴しいわ。
ホント見る目が無いね、みんな。
「…よかったな。 これでええんじゃろ?」
「あの子達、結局何だったの?」
「噂の真実を確かめに来たんじゃと。 さっきまで信じんかったんがお前さんの異常な態度を見て漸く信じよった。」
「異常って何だ、異常なのは貴様の頭の中だろ。」
「くくく、ほんに楽しかったぜよ。 おもろい反応じゃな、さん。」
「お褒めに授かり光栄です、仁王君。 ちっとも嬉しくないからね。」
「プリッ。」
何だかすごく拍子抜けで、怒りは治まっていないもののもう殴る気は起こらなかった。
残るのは胸のモヤモヤ感と脱力感。
まあ、誤解が解けるのならいいんだけど……
「さて、授業授業。 チャイム鳴るぜよ。」
「…マイペースだね、仁王君。」
「何じゃ、サボりたかったらまだここにいるか? ま、密会しとう噂が広まっても知らんがな。」
「……もうそいうの本当ごめんです。」
肩を落として仁王君の後に続いて教室を出る。
一歩進んだところで仁王君がニッと笑って振り返った。
「俺は別にええけどの。」
頭をポンと叩いて先を行く。
そんな仁王君の背中を眺め、
「だから私はゴメンだって言ってんでしょ。 バーカ。」
大きな背中を小突いて小走りで追い越し先に教室へと向かった。
そんな騒がしかった一日間。
そして、
「やっぱり告白現場を見たらろくな事がなかったよ、赤也……。」
「…覗き見するからッスよ。」
部活開始前、後輩に憐れんだ視線を向けられる、今日この頃。
――――――――――――――――――――――――
2009.02.03 執筆
仁王氏はからかい甲斐のある奴は結構好きだと思う。
たぶん今彼の中のマイブームは彼女をからかう事なんでしょう。